特殊教育学研究
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精神発達遅滞児・者における記憶
松村 多美恵
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1989 年 27 巻 2 号 p. 83-96

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抄録

多くの研究にもかかわらず、短期記憶と知能レベルの関係に含まれる原因的要因についてはほとんど知られていない。本稿では記憶の構造的要因と制御過程およびメタ記憶に焦点を当て、精神発達遅滞児・者の記憶に関する最近の研究を展望した。この領域の初期の研究において、Ellis(1963)は彼らの記憶成績の劣弱の原因は構造的限界にあるとした。その後1970年には、その原因は制御過程の障害にあるとする主張が一般的になり、1970年代の後半以降になると記憶方略に関する種々の訓練が実施された。その結果、訓練の直接的な効果やその維持は認められたが、般化については疑問視された。そして、1980年代になると般化が可能となるためにはメタ記憶が必要であることが指摘され、とくに実行機能に焦点を当てた訓練の有効性が認められた。しかし、その一方で制御過程や実行過程だけでは劣弱の原因を説明できず、構造的限界を指摘する研究も最近多く報告されている。

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© 1989 日本特殊教育学会
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