1994 年 31 巻 4 号 p. 1-10
重度精神遅滞児の非指示身ぶりによる要求伝達における大人との交渉に、大人からの身ぶり模倣が及ぼす効果を検討するため、子ども及び相手の大人4組を対象とする単一事例研究を行った。大人はベースライン期では子供の要求身ぶりに通常のやり方で応答すること、模倣期では要求身ぶりを模倣することを求められた。3名の子供はベースライン期には大人の応答に対する受容をまったく表現せず、1名は伝達の3分の1で受容を表現した。模倣期には4名ともほとんどの伝達で受容を表現するようになり、子供の身ぶり、大人からの模倣、子供の受容の表現の3ターンからなる交渉が成立した。そこでは、大人による身ぶりの模倣が要求に対する肯定を意味することが子どもに理解されたと考えられた。交渉の成立と平行して身ぶりの際に大人を見ることが3名の子供で増加した。この視線は身ぶり模倣の有無を確かめるものと考えられた。