抄録
Wingate(1988)は、英語のデータに基づき、吃音は頭子音から核母音への移行に困難さがあることによって生じると主張している。一方、Shimamori & Ito(2007,2008)、島守・伊藤(2009)は、日本語の吃音においては語頭音節の核母音から後続する分節素への移行に困難さがある可能性を指摘している。本研究では、日本語においても英語と同様に、頭子音から核母音への移行が吃音頻度に影響を与えるのかどうかを検討した。対象児は学齢期にある吃音児30名であった。頭子音から核母音への移行のある音節(例:/ka/)と移行のない音節(例:/a/)を用いて、呼称課題と音読課題を行った。その結果、両課題において、頭子音から核母音への移行のある音節と移行のない音節の吃音頻度には有意差が認められなかった。この結果から、日本語では英語とは異なり、頭子音から核母音への移行は吃音頻度に影響を与えないことが示唆された。