抄録
本研究では聴覚障害者20名を対象に、聴覚的に提示された環境音の音源を答える課題と、複数の音源が映った日常場面の画像(背景情報)からその状況に存在しうる音源を答える課題を実施し、両課題の成績の関係を明らかにすることで、聴覚障害者の環境音認知における背景情報の活用について検討した。その結果、環境音を聴覚的に識別する能力と、背景情報を手がかりとして環境音の音源を推測する能力に相関関係はみられなかった。また、聴覚的な識別能力の低い者において、背景情報を手がかりとして環境音を推測することが可能であっても、聴覚的に提示されると識別が困難である環境音が多いという特徴がみられた。これらの結果から、一部の聴覚障害者においては、環境音を推測してもその音の聴覚表象を連想し、入力された音響情報と照合することが難しく、環境音認知において背景情報を有効に活用できていない可能性が考えられた。