Abstract
本研究は、全国の肢体不自由・病弱特別支援学校に多く在籍している重度脳機能障害を有する超重症児の教育的対応における不快状態評価に、鼻部皮膚温度が活用可能であるかを探索的に検討することを目的とした。対象児は、覚醒と睡眠の区別すら困難であった超重症児2名であった。教育実践から選定した教育的対応の鼻部皮膚温度を測定した。常時使用している心拍数モニターによって得られる心拍数と鼻部皮膚温度を比較することで、評価の妥当性について検討を行った。その結果、情動換起に伴う鼻部皮膚温度の変動を取り出す処理によって得られた鼻額差分温度の低下と心拍の加速反応との間で、50%以上の生起一致率が認められた。また、生起が一致した刺激は聴覚・触覚刺激のカテゴリーに偏りが確認された。このことから、超重症児の不快情動を引き起こす苦手な刺激を探索する際に、鼻部皮膚温度が活用しうることが推察された。
Translated Abstract
The participants in the present exploratory study were 2 boys (8 years 6 months old and 6 years 8 months old) with profound brain and respiratory disabilities. Observers had difficulty using the children’s facial expressions to differentiate between when they were sleeping and when they were awake. Their nasal skin temperature was measured in order to investigate the validity of using nasal skin temperature to evaluate the children’s sleep and arousal. The comparison measure was heart rate, obtained using a pulse frequency monitor that the children consistently wore. The results showed a greater than 50% matching rate between accelerated heart rate in reaction to an external stimulus and reduction in nasal temperature, calculated from the difference between the nasal surface and the forehead. Further, using the stimuli that had resulted in this effect, biases were confirmed in other sensory system categories. Therefore, these findings suggest that nasal skin temperature may be utilized when searching for forms of stimulation that may be causing discomfort in children with profound brain and respiratory disabilities.
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