文章読解の成績には、文字―音のデコーディングが影響し、日本語では漢字単語の読み成績の関与が強いことが報告されている。本研究では、要点読解の低成績を示す児童のうち漢字単語の読み困難を伴う者(A群)と伴わない者(B群)を対象として、読解低成績の背景要因を多項ロジスティック分析により検討した。対象児は、小学3~6年生1,107名である。目的変数はA群とB群の生起とし、説明変数は「だから」と「しかし」の接続詞テスト、語彙テスト、ひらがな単語の流暢な読みテスト、言語性ワーキングメモリーテストの低成績とした。読解低成績の背景要因として、3・4年生のA群では「だから」と「しかし」の低成績の重複が関与した。B群では「だから」の低成績のみが関与した。5・6年生では、接続詞低成績の関与が少なくなった。3・4年生では、論理の接続詞の選択で不全を示すために、文章の要点をまとめることが困難となる児童の存在が示唆された。
本研究では、発達上の課題や困難を有する非行少年との面接経験がある保護司8名に対して半構造化面接による調査を行い、保護司の困難感と活動に関するニーズを把握し、少年に対して適切な指導や援助を行うための課題について検討した。結果の分析にはKJ法を採用して、面接の音声データを逐語録にして内容ごとに分類した。その結果、保護司の困難感やニーズは121ラベル、9つのカテゴリーに分類され、保護司の困難感として、少年の態度、コミュニケーション、面接設定の困難が挙げられた。保護司のニーズについては、発達障害についての研修、保護観察官からのサポートと連携、再犯防止にかかわる周囲の人間関係の重要性が示された。保護司が発達障害などの発達上の困難を有する少年に対して抱く困難感を軽減するための研修や、地域連携の必要性について考察した。
本研究は、全国の肢体不自由・病弱特別支援学校に多く在籍している重度脳機能障害を有する超重症児の教育的対応における不快状態評価に、鼻部皮膚温度が活用可能であるかを探索的に検討することを目的とした。対象児は、覚醒と睡眠の区別すら困難であった超重症児2名であった。教育実践から選定した教育的対応の鼻部皮膚温度を測定した。常時使用している心拍数モニターによって得られる心拍数と鼻部皮膚温度を比較することで、評価の妥当性について検討を行った。その結果、情動換起に伴う鼻部皮膚温度の変動を取り出す処理によって得られた鼻額差分温度の低下と心拍の加速反応との間で、50%以上の生起一致率が認められた。また、生起が一致した刺激は聴覚・触覚刺激のカテゴリーに偏りが確認された。このことから、超重症児の不快情動を引き起こす苦手な刺激を探索する際に、鼻部皮膚温度が活用しうることが推察された。
反抗挑発症(oppositional defiant disorder; ODD)は、小児期にみられる精神行動障害として頻度が高く、公衆衛生上の重要な課題である。しかし、国内ではODD児を対象とした症例の報告は少なく、特に家庭訪問による行動的介入を適用した実証研究は見当たらない。本研究は、来所相談に困難を示す注意欠如・多動症と自閉スペクトラム症を併存する反抗挑発症の男児に対して、家庭訪問による行動的介入を子どもや保護者の介入受容度に応じて段階的に実施し、その効果を検証した。介入では、先行子操作、低頻度行動分化強化、代替行動の形成を行った。その結果、反抗的行動は減少し、代替行動が増加した。この効果は、1年後のフォローアップ期においても維持していた。このことから、ODD児に対する家庭訪問による行動的介入および介入受容度に応じた段階的な介入の有効性が示唆された。
本研究では、日常生活場面において行動コントロールに困難を抱える知的障害を伴う自閉スペクトラム症生徒1名を対象に、学校内の廊下歩行時に頻回に壁を蹴る行動の改善を試みた。対象生徒の移動に関する課題を整理したところ、授業参加を促進し、学習活動を保障するためには、教室移動を負担なくできることが重点課題になると判断した。そこで、指導第Ⅰ期から、廊下中央を歩行するように全面的な身体的なプロンプトを用いた指導・支援を開始し、段階的に支援の量を減らしていった。第Ⅲ期以降は、さらにトークン・エコノミー法を用いたことで、目的をもって歩行する行動が促されるようになった。最終的に一人で壁を蹴らずに廊下を歩行することができるようになったことから、指導方法の適切性が示された。また、社会的妥当性の結果から、廊下歩行場面における歩行の改善が、対象生徒のQOLの向上にもつながったことが示唆された。