抄録
症例は68歳の男性.2004年3月よりインスリン治療を開始したが,9月下旬より早朝の低血糖,日中の高血糖を繰り返し,血糖コントロールは不良であった.入院時,著しい高インスリン血症(3,360 μU/ml)を認め,抗インスリン抗体陽性(結合率93.7%),抗インスリン受容体抗体陽性だった.超速効型インスリン(ヒューマログ®)に変更し,早朝時低血糖は消失,8カ月後には抗インスリン抗体は減少(結合率50.3%)し,抗インスリン受容体抗体は消失した.125I-インスリンを用いたScatchard解析では,抗インスリン抗体は高親和性部位の結合能が低下していたが,8カ月後には改善していた.ヒト胎盤膜分画を用いたインスリン受容体実験から,1) 患者血清の受容体結合阻害能は透析により消失し,2) 患者血清と同濃度のインスリンを健常人血清へ添加すると受容体結合阻害能が再現され,3) 患者血清の受容体結合阻害能は抗インスリン抗体の低下に並行して消失した.以上から,本症例では抗インスリン抗体によって著明な高インスリン血症をきたし,2次的にインスリン受容体抗体が偽陽性となったと考えられる.