2008 年 51 巻 10 号 p. 907-911
74歳,男性.2005年8月より早朝に気分不良が出現し,砂糖摂取にて症状は軽快していた.同年11月早朝に低血糖(36 mg/dl)による意識消失を来し,精査加療目的で当科に紹介入院した.血中インスリン値は,低血糖発作時に低値,グルカゴン負荷で無反応であった.全身の画像検索で巨大腫瘍はなかったが,残胃吻合部に隆起性病変を認め,生検にて悪性細胞を得た.非ラ氏島腫瘍性低血糖(NICTH)による低血糖症を疑い胃全摘術が施行され,中分化型胃腺癌であった.腫瘍組織にてIGF-II遺伝子の高発現と抗IGF-II抗体陽性所見,患者血清中にbig IGF-IIを認めた.術後に低血糖発作は軽快し,術後3年近く低血糖や腫瘍の再発を認めていない.NICTHを来す腫瘍は巨大で切除不能例が多いが,本例は遠隔転移を伴う巨大腫瘍でなく術前診断に苦慮したが,術後に良好な経過を示したため報告した.