糖尿病
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51 巻, 10 号
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原著
  • —体脂肪率高値の若年女性における検討—
    永井 成美, 坂根 直樹, 森谷 敏夫
    2008 年 51 巻 10 号 p. 889-898
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/05/20
    ジャーナル フリー
    和食は通常,主食の米に汁物,主のおかず,副えのおかずを揃えた形態で摂取されるため栄養バランスを整えやすく,また西欧食に比べて低脂肪である点を利点とする.しかし,健康への影響を実験的に検証した研究は少ないため,本研究では,低脂肪,低エネルギーに調整した和食の摂取が,体脂肪,メタボリックシンドローム関連指標,エネルギー代謝,自律神経活動指標などに及ぼす影響を予防医学的見地から検討した.対象は,標準体重でありながら体脂肪率が高い若年女性11名(年齢;21.7±0.5歳,BMI; 21.0±0.5 kg/m2, 体脂肪率;29.8±0.7%)であり,1食400 kcal(PFC比;20:20:60)に整えた和食を研究室で調理し,1日3回2週間供与した.身体活動量は介入前の状態を維持した.介入前後に体重,体脂肪量,ウエスト周囲径,血圧,血液生化学検査,エネルギー代謝,インスリン抵抗性(HOMA-IR), 交感神経活動指標(心拍変動パワースペクトル解析による)を測定した.介入後には,体重(-2.3±0.2 kg), 体脂肪量(-1.7±0.2 kg), ウエスト周囲径(-3.7±0.6 cm)が有意に減少し,空腹時血糖,インスリン,グリコアルブミン,HOMA-IRも有意に低下した.また,脂質酸化量,および交感神経活動指標の有意な増加とともに(p<0.05), 血清中性脂肪が有意に減少していることから(p<0.01), 全身の脂質代謝の亢進が示された.結論として,低脂肪,低エネルギーに整えた和食の摂取は,2週間という短期間で比較的穏やかなエネルギー制限であっても,体脂肪率とウエスト周囲径減少,およびインスリン抵抗性改善と全身の脂質代謝亢進に寄与していた.本研究結果は,適切な食事介入が体脂肪率の高い若い女性の体組成改善のみでなく,将来のメタボリックシンドローム予防にも有効である可能性を示唆するものである.
症例報告
  • 南 勲, 赤座 至, 関澤 直子, 館野 透, 杉山 徹, 泉山 肇, 和合 健彦, 土井 賢, 吉本 貴宣, 平田 結喜緒
    2008 年 51 巻 10 号 p. 899-906
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/05/20
    ジャーナル フリー
    症例は68歳の男性.2004年3月よりインスリン治療を開始したが,9月下旬より早朝の低血糖,日中の高血糖を繰り返し,血糖コントロールは不良であった.入院時,著しい高インスリン血症(3,360 μU/ml)を認め,抗インスリン抗体陽性(結合率93.7%),抗インスリン受容体抗体陽性だった.超速効型インスリン(ヒューマログ®)に変更し,早朝時低血糖は消失,8カ月後には抗インスリン抗体は減少(結合率50.3%)し,抗インスリン受容体抗体は消失した.125I-インスリンを用いたScatchard解析では,抗インスリン抗体は高親和性部位の結合能が低下していたが,8カ月後には改善していた.ヒト胎盤膜分画を用いたインスリン受容体実験から,1) 患者血清の受容体結合阻害能は透析により消失し,2) 患者血清と同濃度のインスリンを健常人血清へ添加すると受容体結合阻害能が再現され,3) 患者血清の受容体結合阻害能は抗インスリン抗体の低下に並行して消失した.以上から,本症例では抗インスリン抗体によって著明な高インスリン血症をきたし,2次的にインスリン受容体抗体が偽陽性となったと考えられる.
  • 山口 秀樹, 山下 英一郎, 松尾 崇, 長池 涼子, 土持 若葉, 日高 卓麻, 上野 浩晶, 米川 忠人, 後田 義彦, 水田 雅也, ...
    2008 年 51 巻 10 号 p. 907-911
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/05/20
    ジャーナル フリー
    74歳,男性.2005年8月より早朝に気分不良が出現し,砂糖摂取にて症状は軽快していた.同年11月早朝に低血糖(36 mg/dl)による意識消失を来し,精査加療目的で当科に紹介入院した.血中インスリン値は,低血糖発作時に低値,グルカゴン負荷で無反応であった.全身の画像検索で巨大腫瘍はなかったが,残胃吻合部に隆起性病変を認め,生検にて悪性細胞を得た.非ラ氏島腫瘍性低血糖(NICTH)による低血糖症を疑い胃全摘術が施行され,中分化型胃腺癌であった.腫瘍組織にてIGF-II遺伝子の高発現と抗IGF-II抗体陽性所見,患者血清中にbig IGF-IIを認めた.術後に低血糖発作は軽快し,術後3年近く低血糖や腫瘍の再発を認めていない.NICTHを来す腫瘍は巨大で切除不能例が多いが,本例は遠隔転移を伴う巨大腫瘍でなく術前診断に苦慮したが,術後に良好な経過を示したため報告した.
  • 辻中 克昌, 紀田 康雄, 橋本 哲也, 鹿野 勉, 上古 真理, 柏木 厚典
    2008 年 51 巻 10 号 p. 913-918
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/05/20
    ジャーナル フリー
    症例は58歳,女性.2001(平成13)年の健診にて初めて糖尿病を指摘され,近医にて速効型インスリン分泌促進薬を処方されるもHbA1cは9%程度であった.2005(平成17)年8月より他医通院となりスルホニル尿素薬,α-グルコシダーゼ阻害薬を服用にても空腹時血糖313 mg/dl, HbA1c 12.5%と急激な血糖コントロールの悪化と体重減少を認めたため,2006(平成18)年2月6日に当院糖尿病内科紹介され入院となった.糖尿病に対しては,入院後直ちにインスリン治療を開始した.血中,尿中CPRはそれぞれ0.1 ng/ml, 10.3 μg/dayとインスリン分泌の低下を認めたが抗GAD抗体は陰性であった.触診で腹部に握りこぶし大の腫瘤を認め,腹部エコー,CTにて膵頭部癌,多発肝転移,リンパ節転移と診断された.内視鏡で得られた生検組織での検討では退形成性膵管癌(giant cell type)と診断され,塩酸ゲムシタビンによる化学療法を行ったが効果は認めなかった.腫瘍の増大,75,240/μlまでの著明な白血球の増多,極度の貧血も認め6月4日に永眠された.後日の免疫組織学検討からgranulocyte-colony stimulating factor(以下,G-CSF)産生退形成性膵管癌と最終診断した.2型糖尿病発症後の比較的早期に非常に稀なG-CSF産生退形成性膵管癌を併発し,急激な血糖コントロールの悪化,インスリン分泌の低下,体重減少,白血球増多,帯状疱疹,貧血等の多彩な症状を伴い急激に経過した症例を経験した.G-CSFがautocrine growth factorとして作用し,病態の急激な悪化に関与したと考えられた.糖尿病の急激な悪化に際しては,膵癌の可能性を念頭に置いて腫瘍マーカーや画像診断による早期のスクリーニングが必要である.さらに,症状はなくとも腹部理学所見をとることは重要である.
  • 出口 亜希子, 長坂 昌一郎, 藤沢 元郎, 谷田貝 利光, 板橋 直樹, 岡田 耕治, 石橋 俊
    2008 年 51 巻 10 号 p. 919-924
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/05/20
    ジャーナル フリー
    症例は33歳の男性.7歳時にPrader-Willi症候群と診断され,過食に伴う重度の肥満のため,17歳時に心不全と呼吸不全で入院(BMI 77.3 kg/m2), 以降肺炎や心不全などで入退院を繰り返した.食事療法や食欲抑制薬投与の効果は不十分で,30歳時に胃バイパス術を施行された.術後3年の評価では,体重の増加は抑制され,耐糖能異常,心不全・呼吸不全の改善を認めた.術後6年には肥満が増悪していた.Prader-Willi症候群は,過食による肥満や糖尿病の合併などにより,成人期以降の予後は不良である.わが国でも肥満の外科治療への関心が高まっているが,Prader-Willi症候群においても外科治療の症例の集積が必要である.
  • 川原 順子, 岸田 みか, 檜木 茂, 菓子井 良郎, 井内 和幸, 浦風 雅春, 小林 正, 戸辺 一之
    2008 年 51 巻 10 号 p. 925-928
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/05/20
    ジャーナル フリー
    症例は62歳男性.主訴は発熱と右下腿の腫脹・発赤.血糖値515 mg/dl, HbA1c 11.0%, CRP 27.0 mg/dlで糖尿病と蜂窩織炎が疑われた.画像検査にて肝膿瘍(直径9 cm)と多発性下腿筋膿瘍を認め,両部位穿刺液培養および血液培養にてKlebsiella pneumoniae(以下K. pneumoniaeと略す)が検出された.抗生剤投与とともに,肝膿瘍に対して経皮的ドレナージを,下腿筋膿瘍に対し切開開放洗浄を施行し,軽快退院となった.K. pneumoniaeによる肝膿瘍は,糖尿病患者に多く,転移性の病巣を形成しやすい.本例では,肝膿瘍から転移性に下腿筋膿瘍をきたした可能性が高いと考えられた.
  • 吉田 俊秀, 原山 拓也, 楠 知里, 大瀬 裕之
    2008 年 51 巻 10 号 p. 929-932
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/05/20
    ジャーナル フリー
    症例は2型糖尿病と肝硬変にて加療中の70歳女性.身長149.0 cm, 体重43.7 kg. 服の上から直接インスリン注射をする大リーガーを見て,自分もお腹を出して直接注射してみた.注射直後からその部に疼痛が出現し,めまいが起こり,3時間後には意識を消失した.救急病院へ運ばれ,検査の結果,著明な貧血のほか,腹部に広範な皮下出血と注射部直下に巨大皮下血腫(8×11×4.5 cm)が確認された.この大出血の原因には患者が痩せていたことに加え,合併する肝硬変による血小板数減少と,用いたインスリン注入器(ヒューマカート®キット)の注入抵抗の問題が考えられた.最近では,衣服の上から注射しても安全であるという報告が多く見られる.しかし,本例のように,痩せ型で肝硬変のような合併症を伴う場合には,インスリンデバイスの選択を含め,原点に帰った慎重なインスリン注射指導を行う必要があると考え報告した.
コメディカルコーナー・原著
  • 井上 岳, 薄井 健介, 露崎 薫, 加賀谷 隆彦, 山田 悟, 厚田 幸一郎
    2008 年 51 巻 10 号 p. 933-938
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/05/20
    ジャーナル フリー
    健常成人において血糖自己測定にかかる一連の「時間」を調査分析することで,使用者にとって分かりやすい「測定時間」とは何かを考察した.薬事法改正前に発売された測定器では,機器が読み取りを開始してから測定値が表示されるまでの時間と各社の取扱説明書上の「測定時間」がほぼ等しく,改正後に発売される測定器では,これに吸引にかかる時間が加味されており,薬事法改正前後における「測定時間」の解釈が異なることが示唆された.センサーを外袋やボトルから取り出す操作に時間がかかる測定器ほど測定時間全体(穿刺の時間を除く)が長くなる傾向がみられた.センサーセット段階の時間+センサーへの点着から測定値表示段階の時間+センサー廃棄段階の時間を合わせた時間を「測定時間」として位置づけることが,使用者にも分かりやすい表現であると考える.
委員会報告
  • 豊田 長康, 杉山 隆, 鮫島 浩, 平松 祐司, 三田尾 賢, 安日 一郎, 和栗 雅子, 佐中 真由実, 穴澤 園子, 伊藤 千賀子, ...
    2008 年 51 巻 10 号 p. 939-947
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/05/20
    ジャーナル フリー
    妊娠糖尿病(gestational diabetes mellitus; GDM)は,各種の母体および胎児・新生児合併症(周産期合併症)を生じること,たとえ分娩後にいったん耐糖能が正常化しても将来糖尿病に進展する可能性が高いこと,また,最近では胎児期の子宮内環境や新生児期の異常が,小児期や成人期の代謝性疾患(肥満,糖尿病,高血圧等)の原因になりうることが示唆されていることから,その早期発見に努め,妊娠中から適切な治療・管理を行う必要がある.この妊娠糖尿病の定義,診断基準,スクリーニング法という基本的事項について,EBMに基づいた観点から,また,国際的な指針との整合性も考慮しつつ,わが国において共通認識を確立する必要があることから,本調査委員会は現時点における再評価を行った.その結果,学会における妊娠糖尿病に関する今後の指針策定に反映されるよう,以下の提言を行うものである.
    ただし,当初,妊娠糖尿病の診断基準に関する国際的な無作為比較試験(Hyperglycemia and Adverse Pregnancy Outcome Study; HAPO Study)1)の結果は2007年の米国糖尿病学会において一部公表されたが,2008年にInternational Association of Diabetes and Pregnancy Study Groupsにおいて詳細に報告され,討議される予定である.したがって,HAPO Studyの結果が本調査研究期間中に公表されることを期待していたが,本報告書の期限までに間に合わず,残念ながら2009年度以降にずれこむ見込みである.その結果が公表された暁には,わが国の妊娠糖尿病の定義,スクリーニング,診断基準について,改めて見直す作業が必要である.このような経緯から,本調査研究報告書は,現在までの主要な問題点を整理することにより,HAPO Studyの結果公表後の見直し作業をする際の参考資料としての位置づけになると考える.
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