糖尿病
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症例報告
血糖コントロールの急激な悪化と体重減少により発見されたG-CSF産生退形成性膵管癌の1例
辻中 克昌紀田 康雄橋本 哲也鹿野 勉上古 真理柏木 厚典
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2008 年 51 巻 10 号 p. 913-918

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抄録

症例は58歳,女性.2001(平成13)年の健診にて初めて糖尿病を指摘され,近医にて速効型インスリン分泌促進薬を処方されるもHbA1cは9%程度であった.2005(平成17)年8月より他医通院となりスルホニル尿素薬,α-グルコシダーゼ阻害薬を服用にても空腹時血糖313 mg/dl, HbA1c 12.5%と急激な血糖コントロールの悪化と体重減少を認めたため,2006(平成18)年2月6日に当院糖尿病内科紹介され入院となった.糖尿病に対しては,入院後直ちにインスリン治療を開始した.血中,尿中CPRはそれぞれ0.1 ng/ml, 10.3 μg/dayとインスリン分泌の低下を認めたが抗GAD抗体は陰性であった.触診で腹部に握りこぶし大の腫瘤を認め,腹部エコー,CTにて膵頭部癌,多発肝転移,リンパ節転移と診断された.内視鏡で得られた生検組織での検討では退形成性膵管癌(giant cell type)と診断され,塩酸ゲムシタビンによる化学療法を行ったが効果は認めなかった.腫瘍の増大,75,240/μlまでの著明な白血球の増多,極度の貧血も認め6月4日に永眠された.後日の免疫組織学検討からgranulocyte-colony stimulating factor(以下,G-CSF)産生退形成性膵管癌と最終診断した.2型糖尿病発症後の比較的早期に非常に稀なG-CSF産生退形成性膵管癌を併発し,急激な血糖コントロールの悪化,インスリン分泌の低下,体重減少,白血球増多,帯状疱疹,貧血等の多彩な症状を伴い急激に経過した症例を経験した.G-CSFがautocrine growth factorとして作用し,病態の急激な悪化に関与したと考えられた.糖尿病の急激な悪化に際しては,膵癌の可能性を念頭に置いて腫瘍マーカーや画像診断による早期のスクリーニングが必要である.さらに,症状はなくとも腹部理学所見をとることは重要である.

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© 2008 一般社団法人 日本糖尿病学会
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