抄録
症例は39歳男性と26歳女性の兄妹.兄は27歳より糖尿病治療中であったが,数年前より治療を自己中断していた.また高校生の頃から難聴と両下腿の筋力低下を自覚していた.初診時,高血糖と感音性難聴を認め,糖尿病が母系遺伝であることからミトコンドリア糖尿病を疑い,白血球を精査したところミトコンドリア3243(A→G)点突然変異を認めた.妹は16歳時に学校検診を契機に糖尿病と診断され,初診時はGAD抗体<4 U/mlであったが,20歳時に53.8 U/mlと抗体価の上昇を認め1型糖尿病と診断された.24歳時,兄に遺伝子異常を認めたことから同様に精査をしたところ3243(A→G)点突然変異を認めた.ミトコンドリア糖尿病では原則,GAD抗体は陰性とされ,陽性例の報告は極めて稀である.GAD抗体が陽性となる機序に関しては未だ不明な点が多いが,発症メカニズムを推察する上で重要な症例と考えられるため報告する.