抄録
54歳男性.既に3271番位変異ミトコンドリア糖尿病として報告され経過観察していた.GAD抗体陽性時,血糖コントロールは悪化したが,一時的で,その後,陰性化し血糖コントロールも改善した.文献上7名のGAD抗体陽性化したミトコンドリア糖尿病症例が報告されているが,GAD抗体が陰性化し,インスリン非依存状態が持続した症例の報告はない.また母系遺伝の家族歴が濃厚でも,難聴を伴う親族がいなかった点は3243変異をもつミトコンドリア糖尿病と異なっていた.
その後,インスリン分泌能は経年的に低下し血糖コントロールは悪化した.そのため,シタグリプチン50 mgから開始し100 mgに増量投与したところ,約9ヶ月で血糖コントロールは改善しOGTTでインスリン分泌は亢進し食後高血糖は抑制されていた.本例は3271変異ミトコンドリア糖尿病へのDPP-4阻害薬の有効性を証明した世界で最初の症例であり,貴重な知見と考え報告する.