2019 年 62 巻 1 号 p. 9-16
糖尿病治療薬により重症低血糖を生じた患者の医療費と臨床背景の関係を検討した.8年間に救急搬送された39,758例から低血糖症と診断された291例を抽出し,非糖尿病例などを除外した267例(1型糖尿病:17,2型糖尿病:250)を対象とした.対象を帰宅群(153例),入院群(114例)の2群に分類し,それぞれで直接医療費を算出した.医療費は帰宅群で平均1.4万円(中央値は1.0万円),入院群で平均31.4万円(中央値は26.0万円)であった.帰宅群では,スルホニル尿素薬の使用が医療費を押し上げる有意な説明因子であり,使用例(平均2.1万円)では非使用例(平均1.2万円)に比して有意に高額な医療費が発生していた.入院群における医療費は,入院期間とのみ有意な正相関を示した.医療経済の観点からも,重症低血糖の発症を抑制する糖尿病治療の実践が望ましい.