現在患者一人一人に合わせた血糖コントロール目標の設定が推奨されているが,これまで患者自身の血糖コントロールに対する満足度についての検討は少ない.今回我々は糖尿病患者に無記名式のアンケートを行い,血糖コントロール満足度とそれに関わる因子を検討した.血糖コントロールに対する満足度は「とても不満足」から「とても満足」までの5段階で回答を依頼した.2型糖尿病患者254名,1型糖尿病患者22名より回答が得られ,28 %の患者が血糖コントロールに「満足」と回答し,18 %が「不満足」と回答した.血糖コントロール満足度はHbA1c値,食事療法の実践度,医師・外来診療・医療費への満足度,治療中断意思および糖尿病治療満足度(DTSQ)と関連した.血糖コントロールに対する満足度は重要なpatient-reported outcome指標と考えられ,食事療法の自己効力感や患者―医療者関係が関わる可能性が示唆された.
糖尿病治療薬により重症低血糖を生じた患者の医療費と臨床背景の関係を検討した.8年間に救急搬送された39,758例から低血糖症と診断された291例を抽出し,非糖尿病例などを除外した267例(1型糖尿病:17,2型糖尿病:250)を対象とした.対象を帰宅群(153例),入院群(114例)の2群に分類し,それぞれで直接医療費を算出した.医療費は帰宅群で平均1.4万円(中央値は1.0万円),入院群で平均31.4万円(中央値は26.0万円)であった.帰宅群では,スルホニル尿素薬の使用が医療費を押し上げる有意な説明因子であり,使用例(平均2.1万円)では非使用例(平均1.2万円)に比して有意に高額な医療費が発生していた.入院群における医療費は,入院期間とのみ有意な正相関を示した.医療経済の観点からも,重症低血糖の発症を抑制する糖尿病治療の実践が望ましい.
80歳女性.X-5年に2型糖尿病と診断され,経口血糖降下薬で加療中であったが,肝機能障害のため当院に入院となった.AST 96 IU/L,ALT 134 IU/L,γ-GTP 823 IU/L,朝食前血糖204 mg/dL,HbA1c 8.3 %,朝食前血中C-ペプチド2.46 ng/mL,抗GAD抗体55.8 U/mL,IgG4 704 mg/dLであった.画像上胆管拡張を認めたが,膵腫大や膵管狭窄は認めず,肝生検にてIgG4陽性形質細胞を認め,IgG4関連硬化性胆管炎と診断し,ステロイド治療とインスリン治療を開始した.抗GAD抗体価は減少し,インスリン分泌能は改善傾向を示し,経口血糖降下薬で退院となった.IgG4関連疾患に抗GAD抗体陽性の糖尿病の合併は稀であり,症例を報告する.
26歳男性.BMI 34.6 kg/m2,糖尿病歴なし.入院前日夜間より口渇,多飲,多尿が出現し,当日朝より倦怠感を自覚,昼頃には不穏・嘔吐を認めた.救急隊到着後に心停止となり,ドクターヘリで当院に搬送された.血糖1060 mg/dL,HbA1c 6.2 %,血中3-ヒドロキシ酪酸9685 μmol/L,K 7.5 mEq/L,動脈血のpH 6.835,HCO3- 6.0 mmol/Lと,糖尿病ケトアシドーシス,高カリウム血症を認めた.抗GAD抗体・抗IA-2抗体・抗インスリン抗体は陰性,尿中CPR 8.5 μg/day,グルカゴン負荷試験の前後とも血中CPR 0.20 ng/mLであり,劇症1型糖尿病と診断した.本報告により,心停止の鑑別診断の一つとして劇症1型糖尿病の想起につなげ,病院前診療の重要性を再認識されたい.
症例は57歳女性.健診で高血糖を指摘され糖尿病専門クリニックを受診した.随時血糖295 mg/dLに対しHPLC法(アークレイ社製HA-8170)で測定したHbA1c値が4.9 %と乖離を認めた.酵素法でのHbA1c値は6.6 %であり異常ヘモグロビン症が疑われ当院紹介となった.患者は多忙のため1年間治療中断した後に当院を受診し,血糖値(食後3時間)323 mg/dL,HbA1c値(酵素法)12.1 %,尿ケトン1+と糖尿病ケトーシスの診断で即日入院となった.遺伝子解析を行った結果,Hb Montfermeil[β130(H8)Tyr→Cys]と同定された.本症例はHb Montfermeilにより,HPLC法(HA-8170)でのHbA1cが偽低値を示した初めての症例であり報告する.
抗PD-1抗体投与後に発症する1型糖尿病について,日本糖尿病学会員への調査と文献検索を行い22症例を検討した.初回の薬剤投与日から発症までの平均期間は155日,発症時の平均年齢63歳,平均血糖値617 mg/dL,平均HbA1c8.1 %,尿中C-ペプチド4.1 μg/日(中央値),空腹時血中C-ペプチド0.46 ng/mL(中央値)であった.31.6 %に消化器症状,27.8 %に感冒様症状,16.7 %に意識障害を認め,85.0 %でケトーシス,38.9 %で糖尿病性ケトアシドーシスを発症した.50.0 %が劇症1型糖尿病,50.0 %が急性発症1型糖尿病と診断された.膵外分泌酵素は52.6 %で発症時に,28.6 %で発症前に上昇した.1例でGAD抗体陽性であった.抗PD-1抗体投与後に発症する1型糖尿病は,劇症1型糖尿病から急性発症1型糖尿病まで幅広い臨床病型を呈し,高頻度に糖尿病性ケトアシドーシスを発症するため,適切な診断と治療が不可欠である.