2021 年 64 巻 7 号 p. 395-401
症例は36歳タイ人男性.健診でHbA1c高値および小球性低色素性貧血を指摘され来院した.空腹時血糖値87 mg/dL,HbA1c 10.9 %と乖離が認められ,異常Hb症などが疑われたため精査を開始した.非鉄欠乏性の小球性貧血でありサラセミアを疑いHb遺伝子の検査を行った結果,[--/αTα]型のαサラセミア症(HbH症)であることが判明した.不安定HbであるHbH(β4)の変性物がHbA1cと共溶出したために,偽高値となったものと解釈された.αT遺伝子はHb Constant Spring [HBA2:c.427T>C,つまりHbCS:α2 codon142 TAA(Stop)→CAA(Gln)]であった.Hb CSはHPLCではHbA分画(洗い出し分画)に溶出されたものと思われた.血糖値,HbA1c値乖離が見られた際には,Hb異常症の可能性などを考慮して診断を進めていく必要がある.