抄録
インスリン分泌機序における膵B細胞膜の意義を解明することを目的として, ラット単離膵ラ氏島をtrypsinで処理し, 種々の検討を行い以下の結果を得た. 方法は, Wistar系雄性ラット (体重200~250g) よりcollagenase法を用いて得られたラ氏島を5個宛1mg/mlのtrypsinを含むKrebs Henseleit bicarbonatebuffer (PHZ40) 0.5ml中で60分間種々の薬剤を添加しincubateした後, そのmedium中に放出されたインスリンを二抗体法にて, またラ氏島内グルコース, ATP含量をenzymatic cyclingにより測定した.
trypsin処理ラ氏島内インスリン, グルコース, ATP含量はそれぞれ非処理群の対照と比べ有意の変化が認められなかった。グルユースによるインスリン分泌は, trypsin処理ラ氏島において分泌刺激状態では明らかに低値を示し, グルロース濃度を上昇させてもその最大インスリン分泌反応は低下していた.
次に, trypsin処理ラ氏島で低下したグルコースによるインスリン分泌は, adenosine, glucagon, db-cAMPの添加によりそれぞれ有意に回復したが, 非処理群におけるそれぞれの対照と比較するとtrypsin処理群では有意に低下した.
以上の成績より. trypsmは多分細胞膜面を修飾すると想定された. また, グルユースによるインスリン分泌には膵B細胞内代謝の関与のみならず, 膵B細胞膜が重要な意義を有すると考えられ, glucoreceptorの存在も想定される.