1977 年 20 巻 6 号 p. 748-752
グルカゴンが血糖を上昇させることは良く知られた事実であるが, 低血糖に対する効果はあまり報告されていない.そこで, 臨床応用を考慮して, インスリン低血糖に対してのグルカゴンの効果を投与時間を種々変えて, 正常犬において検討した.
実験は42時間絶食した正常犬にインスリンアクトラピット (0.4U/kg) を前投与し, 投与後15分, 30分および90分に各グルカゴン10μg/kgを皮下投与して血糖を経時的に測定して検討した.
インスリン投与後15分および30分にグルカゴンを投与した場合は, いずれもグルカゴン投与後30分においてインスリンのみを投与した対照群に比して有意に高い血糖値を示したが, グルカゴン効果は一過性で, 以後血糖は下降し, インスリン投与後90分以降は対照群と同程度の血糖の推移を示した.
一方, インスリン投与後90分にグルカゴンを投与した場合は, 投与後15分から60分にかけて対照群に比し有意に高い血糖値を示し, 特に, 頂値であるグルカゴン投与後30分および45分においては正常血糖値より10%も高い高血糖となった.このことは, 前投与したインスリンによってglycogen synthetaseがactivateされ, glycogen合成が促進されたためと思われる.
以上のことから, 臨床上, インスリン低血糖に対してグルカゴンを投与する場合はその投与時期を考慮する必要があるものと思われる.