抄録
血清中にヨード化インスリンのみに結合する抗体の存在を証明し得た膵石症に伴う膵性糖尿病の1例を経験した.43才の男性で大酒家であった.糖尿病の家族歴はなかった.1970年から上腹部痛, 下痢が出現したが放置していた.1974年に初めて糖尿病を指摘され治療を受けたがコントロール不良であった.1976年の入院時にみられた耐糖能異常はインスリン治療により著明に改善した.その時の経ロブドウ糖負荷に対するCPR反応は遅延反応ではあったが, 比較的良く保たれていた.膵グルカゴンは終始低値であった.アルギニン負荷に対する成長ホルモン反応は正常であったが, 膵グルカゴンは低反応であった.本例ではB細胞機能不全よりA細胞機能不全の方が優位と思われる.また, 慢性膵炎が再発し, アミラーゼアイソザイム上では膵型アミラーゼの活性増強がみられた.
インスリン治療に良く反応し, 各種外来性インスリンに対して感受性が高いにもかかわらず, 血清中に高いインスリン結合抗体が認められた.この抗体は各種非ヨード化インスリンにほとんど親和性を示さず, ヨード化インスリンにのみ強い反応性を示した.この抗体のimmunoglobulin classはIgGで, 1ight chaintypeはk, λ の両型であった.
本症例はヨード化インスリン結合抗体産生機構と遺伝的背景, あるいは免疫応答系に対する慢性炎症等の二次的修飾の可能性等, 病態解析の上に示唆を与えるものと思われる