抄録
Wistar系雄性ラットにstreptozotocin (STZ) の少量 (30, 40mg/kg体重) を投与し, その催糖尿病作用と催腫瘍作用を観察し, さらに腫瘍の発生過程ならびに担腫瘍動物におけるインスリンおよびグルカゴン分泌を観察した.すなわちSTZ30mg/kg体重投与1週間後のラットのインスリン分泌は比較的良好に保たれていたが, グルカゴン分泌は奇異上昇を示した.投与後9ヵ月目には経ロブドウ糖負荷に対してインスリンが過剰反応を示すラットが出現した.12カ月目には, STZ30mg/kg体重および40mg/kg体重投与群で, 各々89%(8/9), 71%(5/7) に膵ラ島腫瘍が発生した.担腫瘍ラット中10例にはブドウ糖負荷に対するインスリンの過剰反応が認められ, 逆に低反応を示すラットも3例存在した.前者のブドウ糖負荷試験における血糖曲線は後者に比し有意に低値を示したが, グルカゴン分泌は両者間に著明な差は認められなかった.腫瘍は一般にaldehyde-fuchsin陽性細胞により構成され, 腫瘍中には高濃度のインスリンが存在し, さらに免疫化学的に異質なインスリンとグルカゴンが認められた。以上より, STZは少量投与では, 催糖尿病作用は軽微で, むしろ膵ラ島を標的とする催腫瘍作用が強く, 発生したラ島腫瘍はインスリン産生能力を持つ腫瘍であった.経ロブドウ糖負荷に対するインスリン反応により “インスリン高反応腫瘍” と “低反応腫瘍” の2種類の存在が認められた.