1978 年 21 巻 3 号 p. 227-232
34歳の男性, 従来糖尿病を指摘されたことはなかった.炎天下にゴルフをした後より口渇, 多尿で発症, 翌日より嘔吐, 2日後コーヒー残渣様のものを嘔吐.無尿, 傾眠状態で救急外来を受診.消化性潰瘍による吐血, ならびに急性腎不全と診断され, 輸液を開始し, 利尿がついた時点で, 尿糖, 尿ケトン体が証明され, 糖尿病昏睡と診断された.血糖値968mg/dl, 血液pH7.23.直ちにケトアシドーシスとして治療が開始され, 血糖の降下, 尿のケトン体の減少をみたが, それにもかかわらず意識障害は十分に改善せず, 治療開始9時間半後より, 2回の下血とともに意識障害は増強し, 12時間後吐血1回, さらに14時問後激しい腹痛発作がおこり, 消化性潰瘍の穿孔が疑われた.しかし, 臭化ブチルスコポラミン20mgの皮下注射を契機に, 以上の消化器症状は消失, 意識も回復した.この吐血から7日目の胃透視では潰瘍を認めず, 胃内視鏡検査で幽門部から胃角上部にかけて, びらんと発赤を認め, 出血性胃炎と診断された.
わが国では糖尿病昏睡に伴う消化管出血の記載は少ないが, 本例は吐血を伴ったケトアシドーシスとして入院, さらに回復期に一致して, 下血, 吐血とともに腹痛発作を起こし, 意識障害の一過性の増悪を示した1例である.