抄録
インスリン依存性糖尿病患者 (IDD) における膵ラ氏島抗体 (I. C. Ab) は罹病期間が短いほど, その陽性率が高いことが欧米では指摘されている. われわれも日本人小児糖尿病患者でのI. C. Ab.を検索し, I. C. Ab.と罹病期間との逆相関の関係を既に報告している. そこで今回は, IDDに高率に出現する抗甲状腺抗体, 抗胃壁細胞抗体等の臓器特異的な抗体と罹病期間や加齢との関係について検討した. IDDの罹病期間を1年以内, 1~3年, 4~5年, 6~10年, 10年以上の5群に分け, 甲状腺の抗マイクロゾーム抗体を検索したが, それぞれ23.4%, 13.1%, 15.3%, 10.8%, 5.8%と罹病期間が長くなるにつれて陽性率は減少し, 特に, 罹病期間が6年以上になると1年以内の者に比し有意の減少がみられた. 抗胃壁細胞抗体では罹病期間を同様に5群に分けると14.8%, 7.8%, 7.6%, 8.6%, 2.9%と陽性率は減少し, 罹病期間が10年以上になると有意の減少がみられた. このように両抗体とも罹病期間が長くなるにつれて陽性率は減少したがI. C. Ab.のような極端な陽性率の減少はみられなかった. 次にIDDと加齢との関係をみるために, 本症患者を0~20歳, 21~40歳, 41~69歳の3群に分けると抗マイクロゾーム抗体の出現率はそれぞれ17.2%, 12.1%, 7.5%と正常健康者とは逆1に加齢とともに陽性率は減少した. 抗胃壁細胞抗体は8.2%, 18.1%, 5.6%と41~69歳の群で最も低い陽性率を示した. なお抗核抗体は, 正常健康人と同じくIDDにおいては, 加齢とともに陽性率は上昇したが, 0~20歳の群でのみ正常健康人に比し有意に高い陽性率が得られた.