1980 年 23 巻 6 号 p. 633-640
インスリン非依存型糖尿病に盤型高脂血症を合併し, 治療経過中post heparin lipolytic activity (以下PHLAと略す) が高脂血症と逆絹関を示した症例を報告する.
症例は23歳未婚女性. 両親がいとこ結婚である. 19歳頃より肘, 膝に発疹性黄色腫が出現し, 高脂血症と糖尿病を指摘され, 食事療法により黄色腫は消失した. 当院受診時, 黄色腫はなく, 空腹時血糖は140mg/dl, 血中トリグリセリド1,840mg/dl, コレステロール366mg/dl, セルロースアセテート膜によりリポ蛋白電気泳動でbroad β bandを認めた.ヘパリン静注後の肝外性リポ蛋白リパーゼ (LPL) 活性は2.27 (対照7.04土2.32), 肝性リパーゼ (HTGL) 活性は0.85 (対照8.05土3.66) といずれも低下していた. (単位はいずれもμ moles FFA/ml plasma/hour).
入院後1,500Calの食事制限を行ったところ, 高脂血症と糖尿病は改善したが低栄養状態, および無月経となった. 熱量制限を緩めたところ, 糖尿病と高脂血症の悪化をみたためグリベンクラマイド, ついでインスリン療法を併用し良い治療効果を得た. 治療経過中, 高脂血症の程度は空腹時血糖値の増減とほぼ平行して変動し, broad β bandの増減もこれに平行した. 全経過を通じてLPL, HTGL両活性は高脂血症とは著しい逆相関をもって変化し, 高脂血症改善時には活性は上昇したが両活性とも正常値には達しなかった.
本症例の1臨床経過はIII型高脂血症の増悪軽快に関して, LPL, HTGLの活性の変化が密接な関連を有することを示唆する. そしてIII型高脂血症の発現機序にPHLA, とくにHTGLが関与する可能性を示すものである.