抄録
Kwashiorkorはprotein malnutritionの中で全摂取栄養素中, 蛋白摂取不足の比率の高いものであり, 本来食事中の蛋白欠乏により毛髪, 皮膚の特有の変化と発育不良, 腹水などをきたす小児の疾患である.
著者らは四肢しびれ感, 便秘などの神経症状を訴えた41歳男子の重症糖尿病患者で, 長期間下痢が続いたあと, 頭髪の赤色化, 皮膚の粗槌化, 腹水, 浮腫などKwashiorkorに特有の症候群を呈した症例について検索する機会を得た.
本例ではアルコール性慢性膵炎による膵不全の存在が明らかにされ, 著しい低蛋白血症とレ線学的にはいわゆる“malabsorption pattern”がみられた.糖尿病は遺伝歴, 臨床所見およびアルギニンに対する膵グルカゴン反応などから一次性と診断した.治療では大量の膵酵素剤の投与とインスリン療法を施行し, 漸次諸症状の改善をみ, 約4ヵ月後に退院した.
本例の病態は膵不全による吸収障害だけでは説明しえず, また著しい末梢神経障害を示す所見と便秘に始まり徐々にnocturnal diarrheaに移行した病歴とを考え合わせると, いわゆる糖尿病性下痢があったと考えられ, これが膵不全に加わったために重篤なprotein malnutritionに至る悪循環を形成したものと思われた.
成人でみられるKwashiorkorは, 従来胃切除を受けた患者にのみ報告がなされており, 本例のように慢性膵炎を合併した糖尿病患者でみられたことは注目される.