抄録
糖尿病妊婦の胎盤の異常を病理組織学的に, かつ定量的にとらえる目的で, 糖尿病妊婦胎盤19例を対象として, 画像分析処理装置を用いて終末絨毛胎児毛細血管の組織計測を行いその特徴を観察した.
胎児循環血流量に関係すると考えられる終末絨毛断面積に対する絨毛胎児毛細血管腔面積の割合は, 正常妊婦胎盤 (M±SD.: 50.23± 5.61%) に比較して糖尿病妊婦胎盤 (29.19± 6.13%) で有意に低下していた (p<0.001).
母体と胎児の物質交換, 特に酸素の供給能力に関係すると思われる終末絨毛周長に対するVasculo Syncytial Membrane (VSM) の割合は, 正常妊婦胎盤 (37.12±8.12%) に比較して糖尿病妊婦胎盤 (12.79±4.86%) で有意に低下していた (P<0.001).
子宮内胎児死亡をきたした1例の糖尿病妊婦胎盤では, 終末絨毛断面積に対する絨毛胎児毛細血管腔面積の割合は30.94%, 終末絨毛周長に対するVSMの割合は9.87%と著明な低値を示した.
糖尿病妊婦胎盤では終末絨毛胎児毛細血管の血流減少と共に, 絨毛の胎盤膜が厚くVSMが少ないため母児間の物質交換, 特に酸素の供給が行われにくくなることが組織学的に想像され, 胎児のhypoxiaをひきおこしやすい可能性が示された.