2013 年 1 巻 2 号 p. 159-172
本稿は、日本における観光人類学の展開を文化論的転回をめぐる議論との関連から検討するものである。1970年代に開始された観光現象を対象とした人類学的研究は、1980年代半ば以降に日本に移入された。近年国内外を問わず数多くの研究成果が蓄積されており、観光研究にも重要な示唆を与えている。しかしこれまで、観光人類学が観光研究に対しどのような貢献を行っているのかについては、観光研究/人類学双方の文脈において十分に検討されてこなかった。そこで本稿では、観光人類学を観光研究の一領域として位置づけ考察を行った。その際、人文社会諸学において文化論的転回と呼ばれる文化の政治性や構築性について考察する諸研究との関連について焦点を当てた。その結果明らかになったのは、文化論的転回の議論は、日本における観光人類学の導入に重要な役割を果たす一方で、観光人類学が扱う対象や論点を狭めたということである。今後の日本の観光研究における観光人類学は、文化論的転回の議論が不可視化してきた論点も含むより幅広い問題系に取り組む可能性を有しており、地域振興への参画など実践とのかかわりを含むものとなると考えられる。