抄録
本論執筆の目的は、「スポーツ観光」研究の理論的な展望をパフォーマンスに注目して切り拓くことである。増補改訂版の『観光のまなざし3.0』でアーリとラースンはゴフマン流のパフォーマンスを導入して観光のまなざしのパフォーマンス論的転回を目指した。しかしながら、日常生活における自己提示という演劇のメタファーという発想では、観光者自らが本格的なマラソン大会や「YOSAKOIソーラン祭り」などのパフォーマンスに参加する動機や経験、社会的実践、そして真正化の動きなどを明らかにするための理論的な展望を提示することは出来ないと考え、本論では「さらなるパフォーマンスへの転回」を提唱する。そしてこの参加・実践する観光の研究のために、これまでの大衆観光者とは異なる「パフォーマー・観光者」という新たな概念を導入する。ツール・ド・フランスの険しい登坂道を聖地とする一般サイクリストは、自らその登坂道に挑むことで主観的・実存的な真正性を実感し、ソーシャル・メディアに配信することでサイクリスト・コミュニティにおけるアイデンティティと「サブカルチャー資本」を獲得し保持することになる。そしてこのような「パフォーマー・観光者」による行為がその聖地をさらに真正化するという再帰的循環が成立することになる。いまや「スポーツ観光」は観光にとって重要な領域を形成しはじめており、この領域に注目することが観光研究にとって新たな展望を切り拓くことになると考える。