観光学評論
Online ISSN : 2434-0154
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移民たちの船の物質性とモビリティ
地中海・ランペドゥーザ島の「船の墓場」からの問い
北川 眞也
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2018 年 6 巻 1 号 p. 69-86

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抄録
イタリア最南端のランペドゥーザ島には、地中海を渡ってきた移民たちの船が置かれたままの「船の墓場」がある。そこには船のみならず、移民たちが有していた様々な所持品も残っている。これらのモノは、移民たちの移動を可能とした移動空間を構成していたものである。それらが移民たちの身体から切り離されるとき、これらのモノは別種の時間・空間の軌道を描いていくのではないだろうか。
本稿では、これらのモノの物質性とモビリティが、観光地でもあるランペドゥーザの島民、さらにはヨーロッパの人々を、どのように主体化させているのかを考察する。一方には、これらのモノを「境界スペクタクル」として客体化することで、移民たち自身をも客体化、犠牲者化し、かれらの移動性を取り締まる制度レヴェルでの主権的態度がある。他方には、たとえこれらのモノを「展示」するとしても、それらの物質性とモビリティの内側に留まりながら、モノ、そして移民たちとの関係性を内在的に模索する、一部の島民の脱主権的な態度がある。後者の態度には、移民たちの自律的な移動性、移動空間の形成に対して開かれた政治的過程を、この観光空間において引き起こす潜在性があろう。
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© 2018 観光学術学会
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