本稿はマレーシア・ジョージタウンのストリートアート観光を事例として、観光の場におけるアート概念の動態について「アート的なもの」を手掛かりに考察することを目的としている。
1990年代以降、公共空間を舞台に実施されるアートプロジェクトを対象に観光を行うアートツーリズムが拡大している。従来の観光研究は、主にアートツーリズムの経済的側面に焦点が当てられ、社会的意味に関する議論が不足してきた。他方、地域社会とアートとの関係に着目するアート研究は、アートを通じた社会関係の構築について論じてきたものの、一時的に作品に接する観光客のような流動的存在を等閑視してきた。そこで本稿では、移動という要素に着目し、地域社会におけるアートの動態について観光がいかなる影響を持つかを明らかにする。
ジョージタウンの町並みには観光産業の発展とともに多くのストリートアートが描かれている。これらの作品は観光の論理によって作り出され、アートの諸制度に包摂されない「アート的なもの」として既存のアート概念を揺るがしている。加えて、観光の場における「アート的なもの」の経験は、従来の研究で想定されてきた美学的なアート概念に再編成を迫る。
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