観光学評論
Online ISSN : 2434-0154
Print ISSN : 2187-6649
6 巻, 1 号
選択された号の論文の9件中1~9を表示しています
  • 竹富公民館の選択と大規模リゾート
    藤井 紘司
    2018 年 6 巻 1 号 p. 3-17
    発行日: 2018年
    公開日: 2020/03/25
    ジャーナル オープンアクセス
    本稿の目的は、マスツーリズムの弊害に対処しつつ、ながらく外発的な開発を拒否し、歴史的環境を軸とした観光まちづくりに取り組んできたむらが、なにゆえに大規模リゾートの誘致を許容したのかをあきらかにすることにある。本稿でとりあげる沖縄県竹富島は、伝統文化の保全と観光とを両立させた自治的なまちづくり先進地であるものの、大規模リゾートの誘致により、一見、地域社会の「内発性」が揺らいでいるようにもみえる。
    本稿では、半世紀以上にわたる観光まちづくりの経緯をふまえ、その都度その都度の限られた選択肢のなかで、暮らしの問題を解決するために、地域内の各組織や個人がさまざまな外部アクターと離合集散しつつも、連帯する外部アクターを取捨選択していることをあきらかにした。本稿は、大規模リゾートの誘致もまた外部アクターとの連帯の一種ととらえつつ、パートナーシップ的発展論の視点から地域社会の内発性と外部アクターとのかかわりについて考察するものであり、地域社会による取捨選択の基準といったものをより積極的に論じる必要があることを指摘した。
  • マレーシア・ジョージタウンのストリートアート観光を事例に
    鍋倉 咲希
    2018 年 6 巻 1 号 p. 19-34
    発行日: 2018年
    公開日: 2020/03/25
    ジャーナル オープンアクセス
    本稿はマレーシア・ジョージタウンのストリートアート観光を事例として、観光の場におけるアート概念の動態について「アート的なもの」を手掛かりに考察することを目的としている。
    1990年代以降、公共空間を舞台に実施されるアートプロジェクトを対象に観光を行うアートツーリズムが拡大している。従来の観光研究は、主にアートツーリズムの経済的側面に焦点が当てられ、社会的意味に関する議論が不足してきた。他方、地域社会とアートとの関係に着目するアート研究は、アートを通じた社会関係の構築について論じてきたものの、一時的に作品に接する観光客のような流動的存在を等閑視してきた。そこで本稿では、移動という要素に着目し、地域社会におけるアートの動態について観光がいかなる影響を持つかを明らかにする。
    ジョージタウンの町並みには観光産業の発展とともに多くのストリートアートが描かれている。これらの作品は観光の論理によって作り出され、アートの諸制度に包摂されない「アート的なもの」として既存のアート概念を揺るがしている。加えて、観光の場における「アート的なもの」の経験は、従来の研究で想定されてきた美学的なアート概念に再編成を迫る。
  • 大阪府南河内郡を事例に
    新田 康博
    2018 年 6 巻 1 号 p. 35-46
    発行日: 2018年
    公開日: 2020/03/25
    ジャーナル オープンアクセス
    都市近郊の中山間地域における自転車アクティビティ(とりわけヒルクライム)を取り上げ、既存の場所がその意識的な働きかけによっていかに捉えられているかという問いに答えつつ、モビリティ(移動性)の身体的な経験や空間性について考察する。人と自転車の組み合わせによって生み出されるサイクリングの経験は、物質的な景観のみならず、その時どきの身体の状態とともに場所の印象が構成され、身体的な動きと場所を通した感覚的な経験により、場所に関する具体的な地理感覚が認識されている。身体が経験する異なる感覚によって呼び起される場所という視点は、空間・場所・景観を研究し、解釈する方法を考えるうえで重要な意味を持つ。静的に「存在する」だけでなく、積極的に参加するなかで様ざまに変化し、様ざまな経験により内在的に構成されるものなのである。
  • 世界の中の差異化された移動性は作られつづける
    クラング マイク
    2018 年 6 巻 1 号 p. 47-52
    発行日: 2018年
    公開日: 2020/03/25
    ジャーナル オープンアクセス
  • 人と物のデジタル的管理への批判的視角のために
    森 正人
    2018 年 6 巻 1 号 p. 53-67
    発行日: 2018年
    公開日: 2020/03/25
    ジャーナル オープンアクセス
    本稿は、日本における「スマートなるもの」の流通が、人間の行為を物質化しプログラム化すること、それによって特定の空間性と時間性が形成されること、さらにそれがそこに存在しうる人としえない人を作り出していく可能性があることを検討する。「スマートなるもの」の例としては、ポケモンGO、スマート・ゲート、スマート・シティを取り上げた。これらの分析により、「スマートなるもの」はデジタル技術によって「非人間」的に人間の動きを作り出すことを指摘した。特定の空間をコードでプログラムすることで、時間性と空間性が作られる。このコード/空間は、現実の空間が仮想的に管理されることを意味し、アルゴリズムが自動的かつ自律的にビッグ・データを解析するのである。ビッグ・データは日常の様々な場面で「スマートなるもの」をとおして集積される。アルゴリズムはリスクを確率化しながら、セキュリティの観点からそこに存在すべき人間を決定する。とりわけ生体データによる統治は生政治的な社会の統治が、デジタル的になされていること、すなわち、人間の身体がデジタル化されながら、その生身の身体が統治されていることを意味する。
  • 地中海・ランペドゥーザ島の「船の墓場」からの問い
    北川 眞也
    2018 年 6 巻 1 号 p. 69-86
    発行日: 2018年
    公開日: 2020/03/25
    ジャーナル オープンアクセス
    イタリア最南端のランペドゥーザ島には、地中海を渡ってきた移民たちの船が置かれたままの「船の墓場」がある。そこには船のみならず、移民たちが有していた様々な所持品も残っている。これらのモノは、移民たちの移動を可能とした移動空間を構成していたものである。それらが移民たちの身体から切り離されるとき、これらのモノは別種の時間・空間の軌道を描いていくのではないだろうか。
    本稿では、これらのモノの物質性とモビリティが、観光地でもあるランペドゥーザの島民、さらにはヨーロッパの人々を、どのように主体化させているのかを考察する。一方には、これらのモノを「境界スペクタクル」として客体化することで、移民たち自身をも客体化、犠牲者化し、かれらの移動性を取り締まる制度レヴェルでの主権的態度がある。他方には、たとえこれらのモノを「展示」するとしても、それらの物質性とモビリティの内側に留まりながら、モノ、そして移民たちとの関係性を内在的に模索する、一部の島民の脱主権的な態度がある。後者の態度には、移民たちの自律的な移動性、移動空間の形成に対して開かれた政治的過程を、この観光空間において引き起こす潜在性があろう。
  • 「リスク社会」を生きるプーケット在住日本人ダイビング・ガイドの観光人類学
    市野澤 潤平
    2018 年 6 巻 1 号 p. 87-107
    発行日: 2018年
    公開日: 2020/03/25
    ジャーナル オープンアクセス
    プーケットは長く美しいビーチに恵まれたタイ最大の島であり、現在ではタイ南部で最も多くの国際観光客を集めるリゾート地となっている。観光ダイビングはプーケットにおける主要な観光アトラクションのひとつであり、母語でのサービスを受けたいツーリストのニーズに応えるため、日本人を含む外国人ダイビング・ガイドが数多く居住している。本稿は、プーケットの日本人観光ダイビング・ガイドが、人びとをリスク・コンシャス(リスクへの意識が強く深く内面化された状態)にしていく世界という意味での「リスク社会」を生きている、と考える。その上で、彼らの職業生活の一側面を、リスクとセキュリティという観点から理解する。具体的には、セキュリティという概念を、リスクとの対比のうちに差異化して規定することにより、生活を脅かす種々のリスクの直面するプーケットの日本人ダイビング・ガイドたちの行動/態度に見られる独特の傾向を、明らかにする。
  • ポケモンGOに随伴する移動と「統語論的関係の優位化」
    松本 健太郎
    2018 年 6 巻 1 号 p. 109-116
    発行日: 2018年
    公開日: 2020/03/25
    ジャーナル オープンアクセス
    ポケモンGOはそのリリース直後、都市の意味空間を規定するレイヤーを多層化させ、われわれが認知するリアリティをより錯綜したものへと変質させた。実際それは物理空間と仮想空間の領域区分を越境しながら多くの社会問題を引き起こし、われわれが生きる意味世界に「分断」(それをプレイする人とそうでない人のあいだのそれ)をもたらす存在として報道されるに至った。本論考ではプレイヤー/非プレイヤーのあいだの「軋轢」、あるいは、そこから派生した社会的な「分断」を視野にいれつつ、複数の領域にまたがる理論的言説を参照しながら、また、それを前提に「ゲーミフィケーション」概念を再考するなどしながら、デジタル・テクノロジーが現代の記号世界にもたらしつつあるものを考察の俎上に載せてみたい。
  • ツーリズム・モビリティーズの理論のために
    須藤 廣
    2018 年 6 巻 1 号 p. 117-120
    発行日: 2018年
    公開日: 2020/03/25
    ジャーナル オープンアクセス
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