抄録
【目的】超高齢化・医療費高騰の社会にあり、より有効性が高くかつ副作用の少ない薬剤開発、とりわけ有効な治療法に乏しくかつ患者数の増大する難治性神経疾患に対する有効薬剤の開発は社会的急務である。本研究では、薬剤開発のボトルネックである薬剤のヒトにおける安全性評価を効率よく実施するための有用なツールとして、従来は入手困難であったヒト神経系細胞を各種体性幹細胞より分化誘導して作成して基準細胞として使用し、薬剤がヒト神経系細胞の遺伝子・蛋白質発現に及ぼす影響を包括的に解析する手法とそれを駆使したヒト中枢神経細胞・組織に対する薬剤の副作用、催奇性を効率的、客観的にスクリーニングする高感度安全性評価システムの開発を実施した。【方法】ヒト神経系細胞は各種(羊膜、骨髄、臍帯血由来)体性幹細胞を分化誘導させて作成し、ヒト株化細胞(U251、Jurkat)、マウス正常神経系細胞と同時に細胞内総ATP計測法による薬剤毒性試験を実施した。各薬剤のヒト神経系細胞での毒性濃度を評価後、マイクロアレー、プロテインチップ、2次元電気泳動法を組み合わせ、薬剤濃度依存性、薬剤投与後時間依存性、薬剤構造・作用依存性に変動する遺伝子・蛋白質を包括的に解析し、各薬剤の毒性関連遺伝子・蛋白質の同定を試みた。【結果・考察】本システムを用いて、催奇形性薬剤(レチノイン酸、バルプロ酸)、抗うつ薬を中心に毒性関連遺伝子とその遺伝子ネットワーク抽出に成功した。本システムはヒト神経系における薬剤毒性をin vitroで効率よくスクリーニングする有用な方法の1つになりうると考えられる。