抄録
α2u-globulin (AUG)は成熟雄ラットの血清及び尿中に存在する分子量約19kDaの蛋白質で、肝臓で生合成される。AUGの生合成や遺伝子の転写は各種ホルモン(Estrogen、Androgen、Growth hormone等)によって影響を受けることが知られており、特にEstrogenの投与により肝臓でのAUG遺伝子の転写や血清AUG濃度が著しく減少することが知られている。今回、我々は8週令のSD:IGS雄ラットにDiethylstilbestrol (DES)を0.01、0.1,1 mg/kgの用量で7日間反復経口投与し、肝臓における遺伝子発現をDNA microarrayを用いて網羅的に解析すると共にELISA法にて血清AUGの変動を同時に検討し、DES投与によるAUG発現量減少のメカニズムについて検討を行った。投与1日後の血清AUGレベルの上昇と3日後から7日後にかけて血清AUGレベルの減少が観察された。血清AUGの変動は0.1mg/kgよりも1mg/kgで顕著であり、1mg/kg投与群の7日後の血清AUGレベルは全例検出限界以下となった。本実験に使用した動物から得られた肝total RNAをテンプレートとして蛍光標識cDNA(Cy3, Cy5)を作製しAgilent社製 glass cDNA maicroarrayを用いて網羅的に遺伝子の変動を観察した結果、DESの投与用量及び血清AUGと連動した一連の遺伝子群が抽出された。変動した遺伝子群の中で特にRat senescence marker protein 2A gene(SMP-2)と血清AUGの変動との関連性が注目された。SMP-2はAndrogen repressibleな蛋白であり、肝細胞がAndrogenに対して感受性を有する時期に発現が抑制され、AUGが誘導される期間はSMP-2の発現が抑制されることが報告されている。また、肝がAndrogenに感受性を持たない幼齢期及び老齢期に発現が誘導され、AUG産生に関し、肝がAndrogen感受性を持たない雌ラットでは全life stageでconstitutiveに発現していることが既に報告されている。今後はこの蛋白とAUG産生との関連性を更に詳細に検討する必要がある。