抄録
【目的】口腔粘膜刺激試験は,歯科材料の前臨床試験として行われている。この試験にはハムスター,モルモット,ウサギが使われ,その中でもハムスターを用いた実験報告が多い。サンプルの適用方法として,カラー法,歯肉に頻回塗布するCTFA法,頬袋を直接縫合する方法などが行われている。ハムスター頬袋にサンプルを適用し頚部カラーとチョッキを用いて脱落を防止する方法(カラー法)は手技が簡便で繰り返し適用が行えるが,動物に大きなストレスを与えサンプルの脱落があるという欠点がある。モルモットの頬部内側にサンプルを直接縫い付ける頬部固定法ではサンプルの脱落がほとんどないが,手術侵襲により適用部位の判定が困難であり,繰り返し適用ができないなどの欠点がある。今回,試験動物の負担軽減やサンプルを頬袋内に確実に保定することを目的として頬袋結紮法を開発し,これまでの方法との比較を行ったので報告する。
【頬袋結紮法】下顎骨基部の皮膚を約7mm切開し,頬袋と結合組織を分離し,高密度ポリエチレンシートをサンプルとして適用した。次に糸を頬袋の外側を1周させ,頬袋先端部への血流を止めないようゆとりをもたせて結紮した。カラー法と頬部固定法についても,高分子素材をサンプルとして適用し,頬袋結紮法との比較を行った。
【結果】カラー法では体重増加が抑制されたのに対し,頬袋結紮法では有意な増加傾向が認められた。また,カラー法では,数例でサンプルの脱落がみられた。肉眼観察では,カラー法で頬袋粘膜の充血や出血,頬部固定法では手術部位の侵襲がみられたが,頬袋結紮法では異常はみられなかった。また,病理組織学的検査において,カラー法では潰瘍や微小膿瘍が認められたのに対し,頬部固定法及び頬袋結紮法では特筆すべき所見は認められなかった。以上のことから,頬袋結紮法は動物へのストレスが少なく,頬袋粘膜にほとんど影響を与えない有用な試験方法であると結論した。