抄録
動物血中の各種酵素活性上昇については,臓器障害との関連がヒトと同様に考察されているものの,その関連を動物で詳細に検討した報告は少ない。本報告では,ラットの各種臓器ホモジネートについて逸脱酵素活性を測定し,血中で活性が上昇する酵素の由来臓器について検討を行った。各臓器の酵素活性を測定した結果,LDH活性は甲状腺,胸腺,心臓,横隔膜,肝臓,腎臓,胃,小腸および骨格筋で,HBDH活性は大脳,心臓,脾臓,副腎,脊髄,前立腺および卵巣で,CK活性は大脳,食道,心臓,横隔膜,胃,小腸,骨格筋,脊髄および膀胱で,AST活性は大脳,下垂体,心臓,横隔膜,肝臓,副腎,骨格筋および脊髄で,ALT活性は顎下腺,肝臓,胃および小腸でそれぞれ比較的高い活性を認めた。また,HBDH/LDH活性比は大脳,心臓,腎臓,脊髄および精巣で,CK/LDH活性比は大脳,下垂体,食道,心臓,大動脈,大静脈,横隔膜,胃,大腸,骨格筋,脊髄,膀胱,前立腺および子宮でそれぞれ比較的高い値を示した。AST/ALT活性比については,多くの臓器で高い値を示したが,大脳,心臓,脾臓,腎臓,副腎,脊髄,前立腺および卵巣でより高い値を示した。各臓器の細胞質画分についてLDHとCKのアイソザイム分析を行った結果,LDH1-4アイソザイムは大脳,心臓,腎臓,脊髄,精巣に分布し,LDH4又はLDH5はその他の多くの臓器に分布していた。また,CKMBアイソザイムは心臓,大静脈および膀胱に分布し,CKMM又はCKBBアイソザイムは多くの臓器に分布していた。従って,血中の各種逸脱酵素活性を測定するのみでは障害臓器を特定することはできないが,各酵素の活性比やアイソザイム分析を組み合わせることで障害臓器の絞込みが可能であった。