抄録
Brown Norway(BN)ラットに塩化第二水銀(HgCl2)を投与すると、自己抗体の産生および腸粘膜炎、糸球体腎炎、間質性肺炎など多様な臓器に炎症を引き起こすことを第17回毒性病理学会で報告した。今回は、BNラットに免疫抑制剤あるいは抗炎症剤を投与した後にHgCl2 を単回投与し、免疫抑制剤および抗炎症剤による炎症性病変の抑制効果を病理組織学的に検索した。
【方法】
8週齢の雄のBNラットに免疫抑制剤(FK506,1mg/kg) あるいは抗炎症剤(デキサメタゾン,1mg/kg)を実験終了日まで連日、HgCl2 1mg/kgを単回皮下投与し、HgCl2投与4,8および16日後にそれぞれ剖検し、病理組織学的検索を行った。
【結果と考察】
HgCl2単独投与群では、小腸の粘膜固有層および粘膜下織に好中球、リンパ球等の炎症細胞浸潤がび漫性に認められた。腎臓では尿細管上皮の壊死・脱落および尿円柱が認められ、肺では、肺胞壁および小血管周囲に好酸球、リンパ球等の炎症細胞の浸潤が認められた。脾臓では8日目にリンパ濾胞の拡張と胚中心の活性化が認められた。これらの病変は8日目でピークを迎え、その後軽減した。一方、FK506あるいはデキサメタゾン投与群では、小腸の粘膜固有層および粘膜下織への炎症細胞の浸潤は軽減し、特にデキサメタゾン投与群で抑制効果が目立った。これらのことから、HgCl2投与BNラットは特に腸粘膜の炎症を指標に免疫抑制剤および抗炎症剤の薬効評価系として利用できる可能性が示唆された。これらの薬剤による炎症の抑制機序については目下検討中である。