抄録
[目的]p38MAPKカスケードはTNF-α及びIL-1等のサイトカインの産生に関与している。これらのサイトカインは免疫系に対して多様な生理活性を示すことから,p38MAPK阻害剤 SB203580がラット免疫系に及ぼす影響について検討した。[方法]雄ラットにSB203580を30及び300mg/kg×2/dayの用量で14日間反復経口投与して,血液学的検査及び病理組織検査を実施した。さらに,雄ラットにSB203580を10及び30mg/kg×2/dayの用量で14日間反復経口投与し,最終投与の5日前にSRBCを免疫して抗SRBC IgM及びIgG抗体価を測定し,併せて末梢血のリンパ球サブセット分析を行った。[結果]300mg/kg群では全例が出血性腸炎を呈して投与7日目までに死亡した。これらの動物にはリンパ球の脱落を伴う全身リンパ系器官の肉芽腫性肥大,胸腺の萎縮及び副腎の肥大が認められた。また,末梢血好中球数の顕著な増加が認められたが,消化管粘膜における炎症性細胞浸潤は比較的に軽度であった。30mg/kg群では,全例が生存し,末梢血好中球数の軽微な増加が認められたが,免疫系器官の組織変化はほとんど認められなかった。SRBC免疫動物では,抗SRBC IgM及びIgG抗体価に明かな変化は認められず,CD3,CD4及びCD8陽性細胞数の変化も認められなかった。[まとめ]SB203580 300mg/kg群の死因は,消化管障害部位からの腸内細菌感染による敗血症と推定され,その要因として障害部位への炎症性細胞の浸潤及び機能の抑制が考えられた。リンパ系器官におけるリンパ球の枯渇は敗血症発生に伴う二次的な変化と考えられた。一方,全例が生存した30mg/kg以下の群では,病理組織学的検査,リンパ球サブセット分析及び抗体産生能検討の結果から,免疫系への影響はほとんど無かったと判断された。以上の結果から,健常ラットではSB203580の免疫系への影響は明らかではなかったが,微生物感染に対応するinnate immunityが抑制される可能性が示された。現在,SB203580がラット好中球機能に及ぼす影響について検討中である。