抄録
Aryl-hydrocarbon receptor (Ahr)はダイオキシン受容体としての性質を有し、その遺伝子欠失マウスの所見から、毒性学的に多彩な生体反応の引き金となることが確認されている。Ahrのリガンドとなる化合物には、2,3,7,8-TCDDなどの所謂ダイオキシン類の他、多環芳香族の3-methylcholanthrene(3-MC)や、生体由来のindigo/indirubin、βnaphthoflavoneなどが知られている。これらは、Ahrのリガンドでありながら毒性作用が異なって居り、これらのAhr依存度と分子毒性機序の差異を明らかにすることは毒性学的に非常に重要である。本発表では、我々の進める化学物質トキシコゲノミクス・プロジェクト(Percellome Project)の一環として実施した4種のAhr作動性化学物質について、投与によるマウス肝臓における遺伝子発現変動の初期像を比較解析し、その相違点と共通点を分子毒性学的に解明することを目的とする。
12週齢雄のC57BL/6マウスに2,3,7,8-TCDD、2,3,7,8-TCDF、3-methylcholanthrene、或はIndigoを4-5用量(溶媒群及び公比√10、3-4段階)で単回強制経口投与し、その2、4、8、及び24時間後に肝臓を採取し、GeneChip Mouse Genome 430 2.0 Array(約45,000プローブセット)(Affymetrix Inc.)により、網羅的遺伝子発現解析を行った(1化合物に付き16~20群、各群3匹、計48~60測定)。標準化の手法に我々の開発した細胞一個あたりのRNA発現量を得る“Percellome”手法を使用し、化合物間の遺伝子発現比較をmRNAコピー数により正確に実施した。
Cyp1a1, Cyp1a2等、Ahrを介して発現が誘導される幾つかの既知遺伝子についても4物質すべてで誘導が確認されるものの、24時間まで遺伝子発現が持続する物と24時間以内に発現が終息する物など、これらの経時的用量的発現パターンには差異が見られる等の新知見が得られた
(本研究は厚労科研費・H15-化学-002「化学物質リスク評価の基盤整備としてのトキシコゲノミクスに関する研究」による)