抄録
【緒言】トキシコゲノミクスプロジェクト(TGP)は国立医薬品食品衛生研究所と製薬企業17社によって2002年に開始されたプロジェクトである。TGPでは約150化合物について、ラットin vivo、ラット初代培養肝細胞およびヒト初代培養肝細胞の一連のセットで曝露試験を実施し,遺伝子発現及び毒性学的データを蓄積している。我々はそのデータを基にした安全性予測システムの開発を目指している。本発表では、エチオニン暴露後の遺伝子発現変化をラット初代培養肝細胞およびヒト初代培養肝細胞の試験系で比較した。【方法】ラット初代肝細胞は、6週齢の雄性SDラットからコラゲナーゼ還流法により分離した。ヒト初代肝細胞はTissue Transformation Technologies社から購入した。エチオニンを最終濃度0.4、2および10mMになるように培地に添加し、2、8および24時間後に細胞を回収して解析に用いた。網羅的遺伝子発現解析には、ラットはAffymetrix Rat 230 2.0マイクロアレイを、ヒトはU133 Plus 2.0マイクロアレイを用いた。ラットおよびヒトでの比較は、ヒトで得られた結果をラットオルソログに変換して行った。【結果および考察】ヒト初代培養肝細胞とラット初代培養肝細胞で共通して変動が見られた遺伝子数は、ヒト初代培養肝細胞で変動が見られた遺伝子の約2割であった。共通して変動した遺伝子のうちCbp/p300-interacting transactivator, with Glu/Asp-rich carboxy-terminal domain,2 (Cited2)などは、ラットin vivoでも同様な変動が見られ、またTGPで評価済みの化合物の中でも特異的に変動していたことから、エチオニンの作用に密接に関連しているものと考えられた。