抄録
【目的】妊娠母体における血液の動態や性状には経時的な生理的変化が生じるが、これらの変化が非妊娠の状態に比べ、化合物の薬理学的あるいは毒性学的な反応を増強あるいは減弱する可能性が考えられる。したがって、妊娠の経過に伴った血液学・血液生化学データの変動を的確に把握することは薬物による生殖発生毒性を評価する上で重要であるが、妊娠ラットに関するこれらデータの報告は少なく、更なるデータの蓄積が望まれる。そこで、本研究では妊娠ラットを用いて経時的な血液学・血液生化学検査を実施し、非妊娠ラットおよび既知の報告との比較検討を行った。
【材料および方法】12週齢のCrj:CD(SD)IGS系雌雄ラットを交配し、交尾が確認された雌ラットを妊娠0日として、妊娠7日、14日、17日および21日に腹部大動脈より血液を採取し、血液学・血液生化学検査を行った。また、同一週齢の非妊娠ラットについても同様の検査を行った。
【結果】妊娠7日の検査値は、非妊娠ラットの検査値とほぼ同様の値であったが、妊娠14日以降、検査値に変動のみられる検査項目が散見され、妊娠21日では非妊娠ラットと比べて検査値の著しい違いのある検査項目が多数認められた(血液学検査:貧血、網状赤血球百分率およびリンパ球百分率の減少、プロトロンビン時間および活性化部分トロンボプラスチン時間の延長、好中球百分率およびフィブリノーゲン量の増加、血液生化学検査:アルカリホスファターゼ活性の低下、ナトリウム、クロール、カルシウム、アルブミン、アルブミン/グロブリン比およびグルコースの減少)。これらの変動について考察を加えるとともに、これまでに報告のない検査項目の結果についても合わせて報告する。