抄録
【目的】エダラボンはフリーラジカル消去作用を有する急性期脳梗塞の治療薬である.第31回の本学会において,高用量のエダラボンは,セファロチン及びグリセロールと同時にラットへ投与した場合,腎障害発生に対して促進的に働くことを報告した.そこで本実験ではエダラボンの腎障害に及ぼす作用を明らかにするために,セファロチン及びグリセロールを併用投与したラット腎についてDNAマイクロアレイによる遺伝子発現解析を行った.
【方法】セファロチン 2000 mg/kg, iv 及びグリセロール 1 g/kg, sc を単回,エダラボン 200 mg/kg, iv を1日2回投与したCrj:CD(SD)IGS雄ラットの初回投与後24時間までの腎皮質部を経時的に採材し,Rat Expression Array 230A (Affymetrix)を用いて遺伝子発現解析を行うとともに,腎の病理組織学的検査を行った.エダラボン単独投与の場合についても同様の解析を行った.
【結果】病理組織学的にはセファロチン・グリセロール投与群で近位尿細管上皮の変性/壊死が認められた.エダラボンを併用投与した場合に病変は悪化したが,エダラボン単独投与では病理変化は観察されなかった.遺伝子発現解析においてはセファロチン・グリセロール投与群で初回投与後3時間から主としてストレス応答・細胞障害関連遺伝子群の発現上昇が認められ,エダラボンを併用投与した場合に変動幅が増大した.エダラボンとセファロチン・グリセロールとの併用投与で起こる遺伝子発現変動はエダラボン単独投与時には観察されず,腎毒性の最も強いセフェム系抗生剤であるセファロリジン単独投与時の変動に類似していたことから,エダラボンは,併用したセファロチン・グリセロールの作用を間接的に強めることで腎毒性を増悪させていることが示唆された.