抄録
【目的】高杉らが、周産期のマウスへのエストロゲン処置が後に膣や子宮頸部の癌の発生を誘発することを見出し、その後、ヒトの母親が妊娠初期3ヵ月に比較的大量のdiethylstilbestrol(DES)に暴露された際に生まれてきた女児の膣や子宮頸部に20歳前後で明細胞癌が発生する事象のモデルとして、周産期マウス暴露系が確立している。しかし、DES daughter自体が薬用量に於ける事象であることもあり、従来の周産期におけるエストロゲン様化学物質の影響を検討した実験の多くが、大量投与による明瞭な影響を対象としており、実際のヒトの生活環境から暴露可能量な低用量域での研究は少ない。 我々は、周産期における比較的低用量の外来性エストロゲン暴露が遅発性に雌性生殖器に及ぼす影響を検討することを目的とし、DESの新生児期投与の影響を、思春期エストロゲン投与により増幅するプロトコールの開発を試み、検討した。【材料及び方法】動物は、妊娠14日目のCD-1マウスを購入した。分娩後、雌性児8匹/母に分け、保育させた。投与は、PND(postnatal)1?5の5日間DESを0(corn oil)、0.001、0.01、0.1、1、10μg/kg皮下投与し、更に、PND18?20の3日間DESを0(corn oil)、1、10μg/kg皮下投与した。最終投与24時間後に頸椎脱臼にて屠殺し、体重、子宮重量を測定した。卵巣、子宮、膣を中性ホルマリンで固定し、パラフィン包埋、HE染色を施し、病理組織学的検査を行った。【結果及び考察】子宮重量は、PND1?5(0.1μg/kg以上)+PND18?20(10μg/kg)において有意に減少した。病理組織学的検査では、PND1?5(10μg/kg)による多卵性卵胞、PND1?5とPND18?20との複合効果による子宮内膜reserve cell hyperplasitaが観察された。 これらの結果から、比較的低用量のDESの新生児期暴露が、性成熟過程の雌性生殖器のエストロゲン感受性に変化を及ぼし、器質的反応性にも影響を及ぼすことが示された。