抄録
【目的】昨年の本学会において,遺伝毒性作用を有する4物質(Mitomycin C, N-ethy1-N'-nitro-N-nitrosoguanidine, 9-aminoacridine, ICR191)がIC50用量でヒト培養肝細胞HeG2に対して,p53タンパクの蓄積ならびに関連遺伝子の発現を誘導することから,これらが遺伝毒性のパラメータになりうる可能性を示した。本実験ではp53タンパクの蓄積とDNA損傷の程度との相関性に関して検討した。【方法】HepG2にN-ethy1-N'-nitro-N-nitrosoguanidine(ENNG)およびMitomycin C(MMC)をIC50(ENNG:20μg/mL,MMC:0.5μg/mL)用量を最高用量とし,公比3で設定した5用量で24時間処理し,DNA障害の程度をAlkaline(pH>13) comet assayで解析し,p53タンパクの蓄積をwestern blotで解析した。【結果】comet assayの結果,ENNGでは最低用量からtail momentの用量依存的な増加が観察された。MMCではtail momentの用量依存的な増加は観察できなかったものの,全ての用量でtail momentの増加傾向が観察された。一方,p53タンパクのwestern blot解析の結果,両物質とも高用量の2用量のみで強い蓄積が観察された。【考察】転写因子であるp53はDNAの損傷ストレスに応答して核内に蓄積し,その標的遺伝子群の発現調節を行うことにより細胞周期の調節,DNAの修復及びアポトーシスを誘導するとされている。しかし本実験の結果から,培養細胞という特殊な条件下ではあるが,p53タンパクの蓄積を誘導するには細胞増殖阻害を引き起こす程度の強いDNA損傷が必要であることが示された。よって,p53タンパクの蓄積を観察することは遺伝毒性試験のパラメータとして適さないと考えられた。今後はリン酸化p53タンパクの発現ならびにp53標的遺伝子の発現とDNA損傷との関連について解析し,DNA損傷時にこれらの果たす役割について検討する予定である。