抄録
我々は昨年の本学会において、第二世代キノロン剤であるノルフロキサシンが、in vitroコメットアッセイおよび小核試験、in vivo中期発癌性試験である肝イニシエーション活性検索法において陽性を示し、遺伝毒性発癌物質である可能性が高いことを報告した。一方、第一世代キノロン剤であるナリジクス酸が、同様の検索において全て陰性を示し、遺伝毒性発癌物質である可能性が低いことを、第21回毒性病理学会で報告した。今回は、第二世代キノロン剤であるシプロフロキサシンについて同様の検索を実施した。ヒトリンパ腫由来のWTK-1細胞を2日間培養後、シプロフロキサシンを培地中に添加して20時間処理し、in vitroコメットアッセイおよび小核試験を行った。また、雄のF344ラットに3分の2肝部分切除を実施し、その12時間後にシプロフロキサシンを単回強制経口投与した。その14日後から10日間2-アセチルアミノフローレン(2-AAF)の混餌投与を行い、その間に四塩化炭素を単回強制経口投与した。さらに11日間の休薬期間後、肝臓を摘出し、胎盤型グルタチオン-S-トランスフェラーゼ(GST-P)一次抗体を用いて免疫染色を実施し、肝イニシエーション活性検索法を行った。シプロフロキサシンは、コメットアッセイで陽性を示したが、小核試験および肝イニシエーション活性検索法では陰性を示した。以上の成績より、シプロフロキサシンは、コメットアッセイで検出可能なDNA損傷を誘発するが、小核となる染色体異常につながらず、さらにはin vivoでのイニシエーションも成立しないと考えられた。したがって、シプロフロキサシンが遺伝毒性発癌物質である可能性は非常に低いことが示唆された。