抄録
【目的】乳癌の治療や予防に用いられているトレミフェン(TOR)とタモキシフェン(TAM)は化学構造上酷似しているが、TAMのみラットに対して強力な肝発癌活性を示す。TAMによる肝発癌は、その代謝物が形成するDNA付加体により誘発されるが、TORの投与によってはDNA付加体がほとんど形成されない。我々はTAMによる肝発癌過程において、DNA修復及び細胞増殖関連タンパク質の発現変動が認められることを報告しており、今回、TAM及びTORのこれら発現変動に及ぼす影響ついて比較検討したので報告する。
【方法】雌SDラットにTOR(40 mg/kg/day)又はTAM(20、40 mg/kg/day)を2又は8週間連日経口投与し、肝臓におけるDNA修復関連タンパク質/酵素(XPA、XPC、APE、OGG1、MGMT)及び細胞増殖関連タンパク質(c-myc、PCNA、cyclin D1、cyclin B、p34cdc2)のmRNAの発現量をRT-PCR法により測定した。
【結果及び考察】TAMはAPE及びMGMTを、TORはAPEを増加させたが、他のDNA修復関連タンパク質/酵素の発現に明らかな変化は認められなかった。c-myc及びcyclin D1は両薬物投与により増加したが、cyclin B及びp34cdc2はTAM投与によってのみ増加した。TAMはTORに比し、より多くのDNA修復及び細胞増殖関連タンパク質/酵素の発現量を増加させた。本研究で得られたTAMとTORの相違とともに、先に報告したTAMの強い代謝活性化酵素(CYP3A2)誘導活性が、TAMとTORの肝発癌活性の相違を生む因子になっている可能性が示唆され、TAMはTORよりも強いイニシエーション及びプロモーション作用を有しているものと推察された。