抄録
癌抑制遺伝子産物p53蛋白は、リン酸化等により活性化され、DNA修復、細胞周期や細胞死等を制御している。重金属によるp53蛋白セリン残基のリン酸化部位、さらに、そのリン酸化に関わるキナーゼについて、野性型p53を発現するヒト乳癌MCF-7細胞を用いて検討した。塩化カドミウム暴露細胞抽出液よりp53蛋白を免疫沈降後、Ser6、9、15、20、37、392のリン酸化を検討した結果、Ser15のリン酸化が認められた。塩化カドミウムの暴露量および暴露時間に依存したリン酸化型p53 Ser15および総p53蛋白量の増加が認められた。塩化亜鉛、塩化水銀、塩化トリブチルスズ、塩化鉛、塩化マンガンの暴露では、p53蛋白Ser15部位のリン酸化は認められなかった。extracellular signal-regulated kinase(ERK)経路阻害剤のU0126、c-Jun N-terminal kinase(JNK)経路阻害剤のLL-Z1640-2、p38阻害剤のSB203580の処理では、塩化カドミウム暴露によるリン酸化型p53 Ser15および総p53蛋白量の増加に影響しなかった。一方、DNA-activated protein kinase(DNA-PK)および ataxia telangiectasia mutated(ATM)の活性阻害剤であるwortmannin、ATM および ATM-Rad3-related protein(ATR)の活性阻害剤であるcaffeineの処理により、塩化カドミウム暴露によるリン酸化型p53 Ser15および総p53蛋白量の増加が、濃度依存性に抑制された。DNA傷害性を有するカドミウム暴露によるp53 Ser15のリン酸化は、phosphatidylinositol 3-kinase related kinase(PIKK)ファミリーに依存する。