抄録
【目的】妊娠期間中にカドミウム (Cd) の腸管吸収が増大することが報告されており、妊娠期間中のCd曝露による胎仔への健康影響が懸念されている。一方、メタロチオネイン (MT) は、Cdの蓄積に関与することやCd毒性を軽減することが報告されているが、体内動態へのMTの関与については未だ明確にされていない。そこで、Cd妊娠期曝露におけるCdの胎仔への蓄積におよぼすMTの影響をMT-I/II欠損 (-/-) マウスを用いて検討した。【方法】MT (+/+) マウスおよびMT (-/-) マウスをそれぞれ雌雄番いで1日間交配し、妊娠1日目から50 ppmのCd濃度を含む飲料水を自由飲水させた。妊娠19日目にエーテル麻酔下で心採血した後、肝臓、腎臓、胎盤、胎仔、羊水および羊膜を摘出した。さらに摘出した胎仔については、肝臓と脳を摘出した。各臓器を硝酸-過酸化水素水で湿式灰化した後、臓器中Cd濃度をICP-MS装置で測定した。また、胎盤可溶性画分中のCdの存在状態をHPLC/ICP-MSを用いて調べた。【結果および考察】妊娠期にCdを経口曝露したMT (-/-) マウスの母体腎臓中Cd濃度は、MT (+/+) マウスより低値を示したが、母体肝臓および胎盤中Cd濃度は、両マウス間で差は認められなかった。一方、胎仔肝臓並びに脳中Cd濃度は、MT (-/-) マウスの方がMT (+/+) マウスより高値を示した。母体血液、羊水および羊膜中Cd濃度は、両マウス間で差は認められなかった。また、MT (+/+) マウスの胎盤可溶性画分中のCdは、主にMT-IとMT-IIの画分に存在していたが、MT (-/-) マウスの胎盤可溶性画分中のCdは、主に高分子画分に存在していた。以上の結果より、MTは、胎仔へのCd蓄積抑制に関与することが明らかとなった。また、胎盤におけるMTとCdとの結合が胎仔へのCd蓄積抑制に関与することが示唆された。