抄録
解熱鎮痛薬のアセトアミノフェン(AAP)は、チトクロムP450で代謝され、活性代謝物のN-acetyl-p-benzoquinone imine (NAPQI) が蛋白に結合し、ミトコンドリアを介するアポトーシス、Kupffer細胞の活性化を起こし、肝障害を生じることが知られている。しかし、このNAPQIがどの蛋白に結合するかは十分な研究がなされていない。ミクロソーム膜結合性のGST(MGST1)は3量体で、サブユニットあたり1個のSH基を有し、このSH基のアルキル化やジスルヒド結合へ酸化で活性化されることが知られているが、ミトコンドリアのMGST1については殆ど研究されてない。本研究では、ミトコンドリアのグルタチオントランスフェラーゼ(mitGST)がNAPQIの結合蛋白としての役割を有するかを検討した。SDラットに予めメチルコランスレン(25mg/kg)を投与し、P450を誘導後、AAP (180~300mg/kg) を腹腔内投与し、一定時間後に肝を灌流後摘出し、ミトコンドリアを分離した。mitGST活性、血清ALT、GST活性、肝過酸化脂質等を測定した。AAP(300mg/kg)投与後3時間でmitGST活性は2.5倍に増加、24時間で1.4倍となった。一方、サイトゾールGST活性は3時間で増加せず、24時間では有意に減少した。AAP投与で増加したmitGST活性はジスルヒド結合還元剤のジチオスレイトールで減少せず、NAPQIの共有結合による活性化が示唆された。また、AAP投与3時間で分離したミトコンドリアはmitGST の活性化とSwellingを生じた。これらの結果はmit GSTがNAPQIの結合蛋白として、AAPの毒性発現に寄与する可能性を示唆している。