抄録
【目的】ピペロニルブトキサイド(PBO)はピレトリン系殺虫剤の共力剤として作用することから、食品添加物や動物用医薬品として使用されている。PBOは通常の変異原性試験において陰性を示すが、げっ歯類の肝臓に対して発がん性を有し、非遺伝毒性発がん物質として分類されている。PBOは薬物代謝酵素のP450を誘導することから、その発がん機序に代謝過程において生じる酸化ストレスの関与が示唆されている。今回、PBO投与による肝DNA損傷およびin vivo変異原性をgpt deltaラットを用いて検索した。また、P450を誘導し、ラット肝発がんプロモーターとして知られるフェノバルビタール(PB)について同様に検索した。
【方法】雄6週齢のF344系gpt delta ラット各群5匹に、PBOを2%、PBを0.1%の濃度でそれぞれ4、13週間混餌投与し、肝DNA 中の8-OHdG量、gpt 遺伝子突然変異頻度ならびに変異スペクトラムを解析した。
【結果】肝重量は何れの投与群においても有意に増加した。8-OHdG 量は、PBOの4週間投与群で対照群と比して有意に上昇し、13週間投与群ではさらに顕著な増加が観察された。一方、PB投与群では実験期間を通じて変化は認められなかった。13週間投与群の各群3例についてin vivo mutation assayを実施したところ、PBO投与群2例の変異頻度が対照群に比して約3~5倍の高値を示した。そのスペクトラム解析の結果、主にAT:TAのトランスバージョン変異の増加が認められた。一方、PB投与群の変異頻度に変化は認められなかった。
【結論】PBOの13週間投与によりgpt遺伝子変異頻度が上昇し、PBOがin vivo変異原性を有することが示唆された。この結果は、これまで非遺伝毒性発がん物質に分類されながらも高い腫瘍発生率を有するPBOの発がん機序を説明している可能性を示している。