抄録
【緒言】医薬品の開発おける安全性試験として、薬物代謝の検討は不可欠である。これまで動物を用いた代謝検討が中心であったが、肝臓での代謝には種差があるとの指摘から、最近ではヒト肝細胞やヒト肝組織を用いた試験が導入されている。しかし、それらは個体差やロット差が大きいこと、供給量が極端に少ないことが課題となる。われわれは、十分量の肝細胞の確保を目標として、形質を保持したまま肝細胞の増殖を可能にする培養法の開発検討を行った。
【材料と方法】肝細胞は、ラット肝臓からコラゲナーゼ処理により調製した。肝(実質)細胞は、同じく肝臓に存在する非実質肝細胞との相互作用により一定の増殖能や形質維持に効果があるとの知見を参考にして、ラット肝細胞と支持細胞(マウス3T3細胞)との共存培養、あるいは支持細胞の培養上清の添加培養について検討した。また、継代法、凍結保存法について検討を加えた。肝細胞の形質評価には、アルブミン産生量、cytochrome pigment(CYP)発現量を指標とした。
【結果と考察】ラットの個体差によってコラゲナーゼ処理後の分離肝細胞の初期細胞接着能が大きく変動し、接着のよい肝細胞のみが増殖能を保持した。また、支持細胞の培養上清の添加、あるいは支持細胞との共存培養のいずれも、初代肝細胞の約30日間の培養過程において、CYP発現については減少傾向があるものの、アルブミン産生能の保持と細胞増殖を誘導した。さらに、初代培養後に継代培養、あるいは凍結保存を行い、その後の2次培養を初代培養と同じ培養法で検討したところ、いずれも肝細胞の増殖を確認できた。本報告では、ヒト肝細胞を用いた場合の増殖能や形質維持についても言及する予定である。