抄録
【目的】 従来,気道内への有害性物質の毒性は吸入暴露試験によって評価されてきた.しかし,大掛かりな施設が必要なことや,ナノ粒子等を評価する際,実験者への暴露などが問題となる.最近,気管内投与による毒性評価方法が開発されているが,まだ統一された評価項目はない.そこで本試験はラットを用いて起炎物質であるリポポリサッカライド(LPS)の気管内投与を行い,諸検査を実施し,気管内投与試験に有用なバイオマーカーの検索を行った.
【方法】麻酔下でラットに生理食塩水(SAL)あるいはLPSを気管内投与し,3時間後,右肺より気管支肺胞洗浄液(BALF)を採取した.左肺は病理組織学的検索を行った.BALF中の細胞分画,生化学的検査(LDH,TP),FACS及びELISA法によるサイトカイン・プロファイルを行った.群構成はSAL単回投与(1群),LPS単回投与(2群),7日間SAL投与(3群),6日間SAL+7日目にLPS投与(4群)の計4群とした.
【結果】細胞学的検査では4群で白血球,好中球の増加が認められた.
サイトカイン・プロファイルでは2及び4群でIL-1α,IL-1β,TNFα,IL-10, MCP-1,GM-CSFの増加が認められた.一方,IFNγ,IL-6及びIL-2に変化は認められなかった.また,生化学的検査(LDH,TP)及び病理組織学的検索で異常は認められなかった.
【結論】LPSの気管内投与によって,短時間(3時間)に6種類のサイトカイン(IL-1α,IL-1β,TNFα,IL-10, MCP-1,GM-CSF)の増加が見られた.また,反復投与時には白血球,好中球などの分画も良い指標となることが確認できた.
これらの検査項目は気管内投与後,初期の炎症反応を検出する有効なバイオマーカーであることが確認され,BALF中のサイトカイン・プロファイルの測定は呼吸器毒性の有効な検索法であると考えられる.