日本トキシコロジー学会学術年会
第35回日本トキシコロジー学会学術年会
セッションID: S1-3
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毒性オミクス[共催:毒性オミクスフォーラム]
トキシコゲノミクス(Percellome Project)を基盤とした分子毒性学の展開の試み
*菅野 純
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抄録
現在の分子毒性学は、生体反応メカニズムに踏み込み、受容体、転写因子等との選択的結合によるシグナル伝達障害などの標的特異性の高いものや、エピジェネティックな遅発影響なども直接的な対象とするようになり、基礎分子生物学と直結する時代に入っている。特に見落としの無い網羅性が要求される毒性学では、全遺伝子のカスケード解明がその最終目標となる。
分子毒性メカニズム解析のためのツールの1つにmRNAを対象とするトキシコゲノミクスがある。この研究を進めるにあたってはデータを既知情報により分類・解析するアプローチは最後に回し、上述の如く網羅性を重んじ、先ずはトランスクリプトーム情報そのものから生物学的に有意な一連の反応を教師無しクラスタリング手法などを駆使して抽出するアプローチを採用した。これは電子顕微鏡写真が世に現れた時の状況になぞらえることが出来る。光学顕微鏡では見えない「もの」が新たに見える様に成った訳であるが、それが何であるかは光学顕微鏡像を参照しても簡単には分からず、電子顕微鏡像を蓄積・解釈しコンセンサスとしての教科書(図譜など)が出来上がって初めて日常的に利用されるようになった。トキシコゲノミクスにおいても同様に教科書、即ち、ある程度の量のデータ蓄積と解析のための基礎研究が必要である。
我々は遺伝子発現データの互換性を確保するPercellome手法を開発し、現在までに、90以上の代表的化学物質(医薬品、一般化学物質、食品関連物質を含む)について単回強制経口投与による肝の初期反応データを中心に採取している。その際、異なったプロトコールで異なった生体組織に対して行われた実験の間でも、共通の分子メカニズムが抽出されることを見ており、今後の全データに亘る複合的解析展開に大きな期待を抱いているところである。ここでは概要と、そこから派生するこれからの毒性学の一つの展望を提示させていただきたい。
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© 2008 日本毒性学会
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