医薬品は成人だけではなく小児にも使用されるが、これまでは開発段階においては成熟動物を用いた非臨床試験および成人による臨床試験のみが行われ、小児での使用について十分に検討されていないことが多かった。薬物によっては小児では薬効が無いばかりでなく、安全性に問題がある場合もあった。このことの反省から、臨床では2000年ICHのE11ガイドライン「小児集団における医薬品の臨床試験に関するガイダンスについて」が通知され、小児治験の指針が示された。非臨床においては2003年米国FDAから幼若動物試験法ドラフトガイダンスが公表され、その後、2006年に最終化された。欧州においても2005年、EMEAからドラフトガイドラインが出された。日本においてはこれまでのところ、行政からの方向性は示されていないが、2007年、製薬協から「幼若動物毒性試験について」が出されている。
この講演ではFDA、EMEAおよび製薬協から提示されている幼若動物試験法を比較検討した結果を報告したい。すなわち、いずれも小児適応のために必ず幼若動物試験が必要とはしておらず、その医薬品を小児に使用するための情報が十分でない場合、および生後に発達する器官(神経、生殖器、骨格、肺、免疫、腎、心、代謝系など)への副作用が危惧される場合に実施すべきとされている。動物、投与および観察など基本的な試験デザインは3者ともほぼ同様であるが、高用量の設定には考え方の違いがみられた。すなわち、FDAおよび製薬協では高用量には明らかな毒性がみられる量が望まれているが、EMEAでは明らかな毒性が生じない量とされている。この相違は、幼若動物試験の目的として発達器官における新規毒性の検出、または成熟動物と比較した場合の毒性の増強の有無のいずれかにより重点をおくかによるものと考えられる。また、製薬協案の試験デザイン例についても紹介したい。